働き方の選択肢が広がる「障害者手帳」とは?
「手帳」と聞くと、何かを制限されるイメージを持つ方もいるかもしれませんが、実際は、生活や就労におけるさまざまな支援を受けるための“証明書”のような役割を果たします。

障害者手帳は生活や就労で支援を受けるための「証明書」
目的と背景
障害者手帳は、障害者が日常生活や仕事の場面で必要な支援を受けられるよう、一定の条件を満たした場合に交付されるものです。
障害者が生活や就労で支援を受けるための「証明書」の役割を果たしています。
手帳を所持することで、公共交通機関の割引や税制優遇、医療費の助成など、さまざまな公的支援を受けることが可能になります。
障害者雇用枠での応募が可能
障害者雇用促進法(注1)に基づき、企業は一定割合の障害者を雇用する義務を負っており、手帳を所持していることで「障害者雇用枠」での応募が可能になり、配慮のある職場環境や業務内容が期待できるため、働く選択肢が広がります。
さらに、特例子会社(注2)や支援を受けながらの雇用といった制度も整備されており、個々のニーズに応じた多様な働き方が実現できます。
※注1出典:厚生労働省「障害者雇用促進法の概要」
※注2出典:厚生労働省「特例子会社制度の概要」
障害者手帳の種類と等級の違いを知ろう
一口に「障害者手帳」と言っても、その種類や等級には違いがあります。
障害者手帳の種類
大きく分けて3種類あります。それぞれ対象となる障害の種類や支援内容が異なります。
身体障害者手帳
身体障害者手帳は、以下のような身体機能に障害がある方を対象としています:

• 視覚障害(例:視力の低下、視野狭窄)
• 聴覚・言語障害(例:難聴、発声障害)
• 肢体不自由(例:手足の麻痺、欠損)
• 内部障害(例:心臓・腎臓・呼吸器などの機能障害)
等級は1級から7級まであり、数字が小さいほど障害の程度が重いことを示します。
主な支援内容:
• 公共交通機関の割引(1種の場合は介護者も対象)
• 医療費の助成
• 税制優遇(所得税・住民税の控除など)
療育手帳(知的障害者手帳)
療育手帳は、知的障害がある方を対象とした手帳です。
等級は以下のように分かれています:
• A(重度)
• B(中度・軽度)
ただし、療育手帳は全国統一の制度ではなく、各自治体が独自に運用しているため、名称や等級の呼び方が異なる場合があります(例:「愛の手帳」「みどりの手帳」など)。
主な支援内容:
• 福祉サービスの利用(生活支援、通所施設など)
• 就労支援
• 税制優遇
• 公共料金の減免(自治体による)
地域によって支援内容が異なるため、お住まいの福祉窓口で確認することが大切です。
精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は、以下のような精神疾患がある方を対象としています:
• うつ病
• 統合失調症
• 双極性障害(躁うつ病)
• 発達障害(自閉スペクトラム症、ADHDなど)
等級は1級〜3級で、1級が最も重度です。
大きな特徴は、原則2年ごとの更新が必要な点です。更新時には医師の診断書が必要となり、障害の状態が変化しやすい精神障害の特性に対応した制度設計となっています。
主な支援内容:
• 障害者雇用枠での就職活動
• 通院費の助成
• 公共料金の割引(電気・ガス・水道など)
• 税制優遇
「1種・2種」の違いと支援内容
区分の意味と対象者
身体障害者手帳および療育手帳には、「1種」と「2種」という区分があります。
これは、障害の程度や日常生活における介助の必要性に応じて分類されるもので、「1種」は重度の障害者が対象、「2種」は中等度以下の障害者が対象となります。
受けられる支援の違い
「1種」と「2種」では、受けられる支援内容に違いがあります。たとえば、公共交通機関の割引制度では、「1種」の場合に介護者1名分の割引も適用されることがあります。
また、福祉サービスの利用範囲や助成金の対象にも違いがある場合があります。
等級や区分によって支援内容が異なるため、自身の状況に応じた正確な情報を把握することが重要です。ホームページなどで確認しましょう。
手帳を取得するには?申請の流れと注意点
手帳を取得するには申請の流れと注意点をしっかり理解しておくことが大切です。
申請に必要な書類と準備
障害者手帳を取得するには、いくつかの書類を準備し、自治体の窓口で申請する必要があります。
診断書の取得
最も重要なのが、医師による「診断書」です。
障害の種類や程度、日常生活への影響などを記載したもので、審査の際に非常に重要な判断材料となります。
診断書の様式は手帳の種類ごとに異なります。

• 精神障害者保健福祉手帳 → 精神科医による診断書
• 身体障害者手帳 → 各障害部位に応じた専門医の診断書
• 療育手帳 → 知能検査や発達検査の結果を含む評価書
かかりつけ医や信頼できる医療機関に「障害者手帳の申請用診断書が必要」と伝えるとスムーズです。
本人確認書類・写真
診断書のほかに、以下の書類も必要です:
• 本人確認書類(いずれか1点):
- 運転免許証
- マイナンバーカード
- 健康保険証 など
• 顔写真:
- サイズ:縦4cm × 横3cm(自治体によって異なる場合あり)
- 撮影時期:申請前6か月以内
- 背景や服装に制限がある場合もあるため、証明写真機や写真館での撮影がおすすめです。
注意点として、写真は手帳に貼付されるため、正面・無帽・無背景のものが望ましいです。
申請から交付までの流れ
申請手続きの流れ
障害者手帳の申請は、お住まいの市区町村の福祉課や障害福祉窓口で行います。

- 必要書類をそろえる(診断書・本人確認書類・写真など)
- 窓口で申請書を記入・提出
- 担当者による内容確認・面談(必要に応じて)
- 審査機関へ送付され、等級などが判定される
自治体によって必要書類や受付時間が異なるため、事前に電話やホームページで確認しておくとよいでしょう。
審査期間と交付の目安
申請から手帳の交付までは、通常1〜2か月程度かかります。
• 審査は、提出された診断書や申請書類をもとに、自治体や都道府県の審査機関が行う
• 審査の結果、等級が想定と異なる場合や、追加資料の提出を求められることもある
交付が決定すると、郵送または窓口での受け取りが基本となります。
しかしながら、一部の自治体によって異なるため、念のため、電話やホームページで確認しておくと安心です。
手帳を所持することで得られる働く上でのメリット
働く上で、生活面と職場の2つの観点からそれぞれのメリットを説明します。
生活面での支援
交通機関の割引
障害者手帳を提示することで、公共交通機関の運賃が割引される制度があります。
手帳の種類によって適用される割引は異なりますが、対象となる交通機関には、例えば以下のようなものがあります:

• JR(日本鉄道)
• 私鉄各社
• 路線バス・高速バス
• 地下鉄・モノレール
• 航空機(国内線)
特に「1種」の手帳をお持ちの方は、介護者1名分の運賃も割引対象になることが多く、通勤や通院、外出の負担を大きく軽減できます。
割引制度の適用条件や手続きは交通機関ごとに異なるため、事前に電話やホームページで確認しておくと安心です。
税制優遇・医療費助成
障害者手帳を所持していることで、以下のような経済的支援を受けることができます:

• 税制優遇:
- 所得税・住民税の障害者控除
- 相続税・贈与税の特例
• 医療費助成:
- 自己負担額の軽減
- 自立支援医療制度の利用(精神障害者など)
また、自治体によっては以下のような独自の支援制度もあります:
• 水道料金の減免
• NHK受信料の免除
• ごみ袋の無料配布や福祉タクシー券の支給
これらの制度は自治体によって異なるため、確認しておくとよいでしょう。
職場での支援
ジョブコーチや支援機関の活用
就労支援機関(注3)からのサポートを受けることができます。
たとえば:

• ジョブコーチ制度:
- 専門スタッフが職場に同行し、業務の習得や人間関係の構築を支援
• 就労移行支援事業所:
- 働くためのスキル訓練や職場体験を提供
• 地域障害者職業センター:
- 職業評価や職場定着支援を実施
これらの支援を活用することで、就職後も職場で安心して働き続けることができます。
※注3出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(6.就労支援機関|独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)
職場における合理的配慮の提供対象となる
職場において「合理的配慮」を求めることができます。
職場での合理的配慮とは、障害者が他の人と機会や待遇を平等に確保して働けるよう、調整を行うことですが、具体的には、以下のような配慮があります:

・業務内容の調整(集中力や体力に応じた業務の割り振り)
・勤務時間の柔軟化(通院や体調に配慮したシフト調整)
・作業環境の整備(静かな作業スペース、照明や音への配慮)
これらの配慮は、障害者が安心して長く働き続けるための重要な要素です。
手帳を持つことの不安と向き合う
障害者手帳を取得・活用することには多くのメリットがありますが、一方で「手帳を持つことに対する不安」や「職場での偏見」など、不安を感じる方も少なくありません。
これらの不安にどう向き合い、安心して働くためにどうすればよいかを紹介します。
よくある不安とその背景
「手帳を開示すると不利になるのでは?」
多くの方が感じる不安のひとつが、「採用に不利になるのではないか」という懸念です。
これは、過去に障害に対する理解が十分でなかった時代の経験や、周囲の反応への不安から生まれたものです。
しかし昨今は、障害者雇用促進法の整備や、企業のダイバーシティが進んでおり、障害者雇用に対する理解は確実に広がっています。
障害の偏見や誤解への対処法
障害の偏見や誤解に対しては、正しい情報を伝えることが第一歩です。
たとえば、以下のようなポイントを簡潔に伝えることで、相手の理解を得やすくなります:

• 自分の障害の特性(例:疲れやすい、音に敏感など)
• 業務上の配慮が必要な点
• 配慮があれば問題なく業務を遂行できること
また、必要に応じてジョブコーチや支援機関の職員に同席してもらうことで、第三者の立場から説明してもらうことも有効です。
伝え方に迷ったときは、支援機関に相談するのもおすすめです。
障害を開示するかの判断軸
障害者手帳を所持していることを企業に伝えるかどうかは、非常に繊細な判断が求められます。
• 障害者雇用枠で応募する場合:手帳の所持の開示が前提となります。
• 一般雇用枠(オープン就労)やクローズ就労の場合:開示の有無やタイミングを自分で選ぶことができます。
開示のタイミングとしては、主に「応募時」と「業務開始後」の2つがあり、それぞれに特徴があります。
・応募時に開示:選考段階から配慮を受けやすくなります。
・業務開始後に開示:「業務環境により、配慮を要する状況になった際に、必要な配慮を受けられる可能性があります。
どのタイミングで開示するかは、個人の状況によって異なります。
信頼できる家族や主治医、就労支援機関などに相談しながら、慎重に判断することが大切です。
安心して長く働くために
企業の取り組み
近年では、障害者雇用に積極的な企業が増えており、以下のような取り組みが進んでいます:

• 障害者雇用専門の担当者を配置
• 定期的な面談やフォローアップ体制の整備
• 障害特性に応じた職場環境の整備(例:静かな作業スペース、業務の見える化)
• 全従業員向け障害者雇用研修の実施
ある企業では、全従業員に対して障害者雇用に関する研修を実施し、障害理解を深める環境を整え、定着率向上を実現しています。
支援機関との連携
ハローワークや地域障害者職業センター、就労移行支援事業所などの支援機関では、就職活動から職場定着までを一貫してサポートしています。

• 応募書類の作成支援
• 面接練習や企業とのマッチング
• 就職後のフォローアップ(職場訪問・相談対応)
また、ジョブコーチ制度を活用すれば、職場に同行してもらいながら、業務の習得や人間関係の構築を支援してもらうこともできます。
支援機関は「就職のため」だけでなく、「働き続けるため」のパートナーでもあります。
手帳の更新・等級変更と雇用への影響
障害者手帳ごとの有効期限にも留意する必要があります。
特に精神障害者保健福祉手帳は、定期的な更新が必要となり、障害の状態が変化した場合には、等級の見直しが行われることがあります。
更新のタイミングと手続き
精神障害者手帳の2年更新制
精神障害者保健福祉手帳は、原則として2年ごとの更新が必要です。
これは、精神障害の状態が比較的変動しやすいため、定期的に支援の必要性を見直す目的があります。
• 更新時には、再度医師の診断書を提出し、障害の状態について審査を受けます。
• 自治体によっては、更新の案内が郵送されることもありますが、基本的には自己管理が必要です。
更新を忘れてしまうと、障害者手帳が一時的に無効となり、各種支援制度の利用ができなくなる可能性があります。早めの準備を心がけましょう。
等級変更の可能性
更新時の診断結果や生活状況の変化により、手帳の等級が変更されることがあります。
• 症状が軽減した場合:等級が下がる(例:2級 → 3級)
• 状態が悪化した場合:等級が上がる(例:3級 → 2級)
等級が変わると、受けられる支援内容や税制優遇の範囲にも影響が出ることがあります。たとえば、交通機関の割引対象や、医療費助成の内容が変わることもあります。
等級変更後は、支援制度の内容を再確認し、必要に応じて手続きの見直しを行いましょう。
雇用継続のための支援体制
等級変更があったとしても、それが直ちに雇用契約の終了につながることは基本的にありません。
むしろ、企業と支援機関が連携し、障害者が継続して働けるような体制を整えることが重要です。

• ジョブコーチ:職場に同行し、業務や人間関係のサポートを行う
• 産業医:健康状態に応じた勤務アドバイスを提供
• 障害者職業センター:職場定着支援や職場環境の調整を支援
等級が変わっても、支援体制を活用することで、安心して働き続けることができます。
【事例】障害者雇用で働く人の声を紹介
障害者雇用として就職や転職し、実際に職場で活躍している方々の事例を紹介します。
障害種別でみる働く人の事例
精神障害者
発達障害者
身体障害者
手帳を開示してよかったという声
安心して働ける環境ができた
「手帳を開示することで、職場に自分の特性を理解してもらえた」「無理をせず働ける環境が整った」という声は多く聞かれます。
以下のような例があります:
• 業務量や作業内容を自分のペースに合わせて調整してもらえた
• 通院や体調に配慮した勤務スケジュールを組んでもらえた
• 周囲の理解が深まり、職場での人間関係がスムーズになった
開示によって、企業側が配慮の必要性を正しく認識し、適切な対応を取ることができるようになります。その結果、本人のストレスが軽減され、長期的な就労につながるケースが増えています。
支援制度を活用できた
ジョブコーチの派遣や就労移行支援事業所の利用など、さまざまな支援制度を活用できたという声もあります。
以下のような場面で支援が役立った例があります:
• 新しい職場での業務習得に不安があったが、ジョブコーチのサポートでスムーズに慣れることができた
• 人間関係に悩んだとき、支援機関の職員に相談することで気持ちが楽になった
• 定期的な面談やフォローアップにより、職場に定着しやすくなった
まとめ:障害者手帳は生活や就労で支援を受けるための「証明書」
障害者手帳は、生活や就労で支援を受けるための「証明書」で、一人ひとりが、自分らしく働き、生活することにつながります。
制度を正しく理解し、活用することで、これまで見えなかった選択肢や可能性が広がります。
自分らしい働き方を見つけるために
障害者手帳を活かしたキャリア形成
自分に合った職場環境や働き方を選びやすくなります。
たとえば:
• 合理的配慮を受けながら働ける企業を選ぶ
• 在宅勤務や短時間勤務など、柔軟な働き方を模索する
• 障害者雇用枠での就職により、職場での理解や安定した雇用を得る
自分の特性や希望に合った働き方を見つけることが、長く働き続けるための第一歩です。
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