障害者雇用が進むなか、多くの管理職が悩むのが「ミスをどのように指摘すればよいのか」という問題です。
厳しく注意すると萎縮してしまうのではないか。 反対に配慮を優先しすぎると改善につながらないのではないか。
こうした悩みを抱える担当者は少なくありません。
しかし、障害のある従業員だからといって、ミスを指摘してはいけないわけではありません。重要なのは障害そのものではなく、業務上の行動や事実に焦点を当てて伝えることです。
障害のある従業員への指導で起こりやすい誤解
障害者雇用に関する知識が十分に浸透していない職場では、「配慮=甘やかすこと」「障害がある人には注意してはいけない」といった誤解が生じることもあります。しかし、このような考え方は本人にとっても職場にとっても望ましいものではありません。
まずは、「配慮」とは何か、そして「特別扱い」とどう違うのかを正しく理解することが大切です。配慮と指導は相反するものではなく、両立させることで初めて障害のある従業員が安心して働き、能力を発揮できる環境が実現します。
「配慮」と「特別扱い」は違う
障害者雇用において必要なのは合理的配慮です。合理的配慮とは、障害による困難を補うために業務環境や伝え方を調整することです。一方で、業務上のルールや求められる成果そのものまで免除することではありません。
例えば、口頭での指示が理解しづらい従業員に対して、メモやチェックリストを活用することは合理的配慮です。しかし、同じミスを繰り返しても何も指摘しない、業務上必要なルールを守らなくても許容する、といった対応は特別扱いにあたります。
そのため、
- ミスを見逃す
- 注意しない
- 評価しない
という対応は適切ではありません。
むしろ改善機会を奪い、本人の成長を妨げる可能性があります。

遠慮しすぎることで現場に不公平感が生まれる
他の従業員との間に不公平感が生まれると、職場全体のモチベーション低下につながることもあります。
例えば、障害のある従業員が同じミスを繰り返しても注意されない一方で、他の従業員には厳しく指導が行われている場合、「なぜあの人だけ指摘されないのか」という不満が生じやすくなります。
もちろん、障害特性に応じた合理的配慮は必要です。しかし、配慮の内容が周囲から見て「ルールが適用されていない」「責任が免除されている」と受け取られると、職場内の信頼関係に影響を及ぼす可能性があります。
ミスを指摘するときの3つのポイント
①人格ではなく事実を伝える
ミスを指摘する際に最も重要なのは、本人の人格や能力を評価するのではなく、実際に起きた事実や行動に焦点を当てることです。感情的な表現を避けることで、相手も内容を受け止めやすくなり、建設的な改善につながります。
例:
NG
「どうしていつもできないの?」
OK
「この報告書は提出期限が1日遅れていました」
事実ベースで伝えることで、感情的な衝突を避けられます。
また、「いつも」「全然」「やる気がない」といった抽象的な表現や人格を評価する言い方は、本人が何を改善すればよいのか分かりにくくなります。特に障害特性によっては、曖昧な表現や感情的な言葉の意図を正確に理解することが難しい場合もあります。
そのため、「いつ」「どの業務で」「何が起きたのか」を具体的に伝えることが重要です。
②改善方法を具体的に示す
ミスを指摘するだけでは、再発防止にはつながりません。重要なのは、「次からどうすればよいのか」を本人が具体的にイメージできる状態をつくることです。
例:
NG
「次から気を付けてください」
OK
「提出日の前日にアラームを設定しましょう」
抽象的な注意ではなく、具体的な行動に落とし込むことが重要です。
「気を付ける」「注意する」といった表現だけでは、何をどう変えればよいのかが分からない場合があります。特に発達障害のある従業員の場合は、具体的な手順やルールを示した方が理解しやすく、実践にもつながりやすくなります。
例えば、
- チェックリストを活用する
- ダブルチェックのタイミングを決める
- スケジュール管理ツールを使う
- 作業手順を書面化する
といった方法が考えられます。
③働く障害者の理解を確認する
どれだけ丁寧に説明しても、相手が同じ内容として受け取っているとは限りません。指導の効果を高めるためには、説明後に理解度を確認することが欠かせません。
説明したつもりでも、正確に伝わっていないケースがあります。
- どう理解したか
- 次回どう対応するか
上記を働く障害者の言葉で確認しましょう。
管理職が「伝えたつもり」でも、働く障害者は異なる解釈をしていることがあります。特に口頭のみで説明した場合には、重要なポイントが十分に伝わっていないことも少なくありません。
そのため、「今日の話をどのように理解しましたか」「次回はどう対応しますか」と確認し、本人の言葉で説明してもらうことが大切です。また、必要に応じてメモやチェックリストなどを活用し、後から振り返れる状態をつくっておくと、より効果的な指導につながります。
障害特性によって配慮すべきポイント
障害のある従業員への指導では、障害特性によって理解しやすい伝え方や配慮の方法が異なります。同じ内容を伝える場合でも、障害特性に合わせて伝え方を工夫することで、ミスの改善や職場への定着につながります。ただし、ここで紹介する内容はあくまでも一般的な傾向であり、一人ひとりの状況に応じた対応が重要です。
発達障害の場合
発達障害のある従業員に対しては、曖昧さをなくし、具体的で分かりやすい形で伝えることが重要です。口頭だけの説明や抽象的な指示では意図が伝わりにくく、ミスの原因につながることがあります。
- 曖昧な表現を避ける
- 手順を明文化する
- チェックリストを活用する
例えば、「なるべく早く対応してください」ではなく、「本日17時までに提出してください」のように具体的に伝えると理解しやすくなります。また、業務手順を文書化したり、作業ごとのチェックリストを用意したりすることで、業務の抜け漏れ防止にもつながります。
精神障害の場合
精神障害のある従業員に対しては、心理的な負担に配慮しながら指導を行うことが重要です。強い叱責やプレッシャーは、業務パフォーマンスだけでなく体調にも影響を与える可能性があります。
- 人前で叱責しない
- 一度に多くの指摘をしない
- 体調変化も確認する
例えば、多くの人がいる場所でミスを指摘すると、必要以上に萎縮してしまうことがあります。そのため、落ち着いて話せる場所を選び、本人が冷静に受け止められる環境を整えることが大切です。
知的障害の場合
知的障害のある従業員に対しては、できるだけシンプルで分かりやすい説明を心掛けることが重要です。長い説明や複雑な表現は理解が難しくなる場合があります。
- 短く分かりやすく伝える
- 実演しながら説明する
- 繰り返し確認する
例えば、「注意して作業してください」ではなく、「作業が終わったら、この項目を確認してから提出してください」と具体的に伝える方が理解しやすくなります。
また、言葉だけで説明するのではなく、実際の作業を見せながら説明したり、見本を用意したりすることも有効です。指導後は理解したつもりにならず、実際にやってもらいながら確認することで認識のズレを防げます。
身体障害の場合
身体障害のある従業員に対しては、ミスそのものだけでなく、作業環境や設備、業務プロセスに原因がないかを確認することが重要です。本人の努力不足と決めつけるのではなく、障害特性による影響や職場環境も含めて原因を考える視点が求められます。
- 業務環境に問題がないか確認する
- 必要な補助機器や支援ツールを活用する
- 困っていることを定期的に確認する
例えば、肢体不自由のある従業員の場合、作業スペースの動線や設備の使いにくさがミスにつながっていることがあります。また、視覚障害のある従業員であれば、文字の見えづらさや情報の伝わり方が原因になっているケースもあります。

やってはいけない指導方法
障害のある従業員への指導では、「改善してほしい」という思いが強いあまり、かえって信頼関係を損なう伝え方をしてしまうことがあります。特に感情的な指導や障害の特性を考慮しない対応は、業務改善につながらないだけでなく、職場への不安やストレスを高める原因にもなります。
以下のような指導方法は避けるようにしましょう。
感情的に叱る
ミスが続くと、つい感情的な言葉で注意したくなることもあります。しかし、「なぜこんなこともできないのか」「いい加減にしてほしい」といった叱責は、障害のある従業員 を萎縮させるだけで改善にはつながりません。
指導の際は感情ではなく事実に基づき、何が問題だったのか、次回どうすればよいのかを冷静に伝えることが大切です。
他の従業員と比較する
「〇〇さんはできているのに」「みんなはできている」といった比較は、自信の喪失だけでなくハラスメントにもなる可能性もあります。
障害の有無にかかわらず、人によって得意・不得意は異なります。比較ではなく、障害のある従業員の業務状況や成長に焦点を当てて指導することが重要です。
障害を原因と決めつける
ミスが発生した際に、「障害があるから仕方ない」「障害のせいだろう」と決めつけるのは適切ではありません。
実際には業務手順の分かりにくさや指示方法、職場環境などが原因となっているケースもあります。まずは事実を確認し、何がミスの要因だったのかを客観的に分析することが大切です。
障害者雇用を成功させる企業は「ミスの原因」を分析している
障害者雇用で成果を上げている企業に共通しているのは、ミスが発生した際に個人の能力や努力不足だけを問題視しないことです。重要なのは「誰が悪いのか」を追及することではなく、「なぜミスが起きたのか」「どうすれば再発を防げるのか」を分析する視点です。
成果を出している企業は、「本人が悪い」ではなく、「仕組みで防げないか」を考えています。
例えば、
- ダブルチェック体制
- 業務マニュアル
- チェックリスト
- リマインドツール
などを活用し、ミスが起こりにくい環境を整備しています。
また、障害のある従業員のミスの背景には、障害特性だけでなく、指示の出し方や業務フローの分かりにくさが影響しているケースも少なくありません。実際に、担当者が口頭でしか指示を出していなかったり、業務手順が属人化していたりすることで、誰にでも起こり得るミスが発生している場合があります。
そのため、ミスが発生した場合は次のような観点から原因を整理すると効果的です。
- 指示内容は十分に伝わっていたか
- 業務手順は明確だったか
- 確認工程は設けられていたか
- 作業量やスケジュールは適切だったか
- 必要な配慮や支援が提供されていたか
このように原因を分析することで、個人への注意だけでは解決できない課題が見えてきます。
さらに、ミスを防ぐ仕組みは障害のある従業員だけでなく、職場全体の生産性向上にもつながります。チェックリストやマニュアルの整備は、異動者や新入社員の教育にも活用できるため、組織全体の業務品質向上という副次的な効果も期待できます。

まとめ
障害のある従業員のミスを指摘するときに重要なのは、「注意するかどうか」ではなく、「どのように伝えるか」です。配慮を理由に指導を避けることは、障害のある従業員 の成長機会を奪うだけでなく、職場全体の公平性や業務品質にも影響を与える可能性があります。
そのため、ミスを指摘する際は次の4つのポイントを意識しましょう。
- 事実に基づいて伝える
- 具体的な改善策を示す
- 業務理解を確認する
- 障害特性に応じた配慮を行う
これらを実践することで、必要な指導と合理的配慮を両立させながら、障害のある従業員との信頼関係を維持しやすくなります。
また、障害者雇用がうまくいっている企業ほど、ミスを個人の能力や努力の問題として捉えるのではなく、業務の進め方や職場の仕組みに改善の余地がないかを検証しています。ミスを減らすための環境づくりは、障害のある従業員だけでなく、組織全体の生産性向上にもつながる重要な取り組みです。
障害者雇用は単なる法令対応ではなく、企業の持続的な成長や組織づくりにもつながる取り組みです。
- 障害者の定着がうまくいかない
- 障害者雇用のノウハウが足りない
- 障害者雇用の進め方に悩んでいる
このような場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
2009年設立、370社、2,500名以上の障害者雇用支援実績のあるスタートラインまでお気軽にお問い合わせください。
障害者雇用の業務切り出しだけでなく、業務切り出しから採用、定着までワンストップでの支援や、様々な課題に対して、ソリューションの提供が可能です。
