働く意欲はあるものの、「都心まで通うことが難しい」「バリアフリー環境が整ってないと不安」といった理由で、就労に消極的になってしまいがちな障がい者がいらっしゃいます。
そんな不安を解消し、どんな障がいがあろうとも安心して働ける環境があります。株式会社スタートライン(以下、スタートライン)の提供する「障がい者向けサテライトオフィスサービス(以下、サテライトオフィス)」です。
障がい者向けサテライトオフィスサービスとは?
https://start-line.jp/business/satellite_office
東京、埼玉、神奈川に複数開設されたサテライトオフィスは、バリアフリーに対応しており、スタートラインのサポートスタッフが常駐しているため、快適な就労環境を約束しています。
今回は、実際にサテライトオフィスを利用している株式会社WOWOWコミュニケーションズ 人事部 人事課、曽根 孝浩様をゲストに招き、その決め手やメリット、リアルな現場の様子などのお話を伺いました。
目次
セキュリティや安全面にも配慮されている
― まずは御社の障がい者雇用の現状について教えてください。
弊社は横浜にある本社に加え、東京、北海道、大阪、沖縄と全国に拠点を持っています。社員数は約1300人です。そのうち、22名が障がい者です。障がい特性もさまざまで、身体障がい、精神障がい、軽度の知的障がい者がいます。
現在、国によって定められている民間企業の法定雇用率は2.2%ですが、弊社では2018年度に過去最高となる3.36%を達成することができました。
とはいえ、この数字だけみれば障がい者雇用が成功しているかのようにも見えますが、「定着」という課題は残っています。
最近、安定してきたものの、2017年度は月によって法定雇用率を達成できなかったこともあり、障がい者の定着はまだまだ課題だと考えています。
― サテライトオフィスを導入しようと思った理由は何でしょうか?
サテライトオフィスを導入したのは2014年頃です。
それ以前の、2010~2013年までは社員約900人に対し、障がい者がわずか10人しかおらず、雇用率は1%ほどでした。
そこに対する問題意識は持っていたのですが、会社として障がい者雇用についてきちんと考えるようになったのは、グループ会社でパラリンピックを題材にしたドキュメンタリー番組を制作することになったのがきっかけです。
そういったコンテンツをグループ会社が手掛けている以上、弊社としても障がい者雇用に真剣に取り組んでいく必要がありました。
そこで当時実施したのが、自社サイトでの募集と、ハローワークでの合同面接会への参加でした。しかし、結果として法定雇用率は達成できませんでした。ハローワークの合同面接会では採用自体できたものの、定着に繋がらなかったのです。
その理由について考えてみたとき、「法定雇用率をクリアすること」が目的となってしまっていて、どういう人材が必要なのか各部署とすり合わせができていなかったことに気づきました。入社後、配属先の部署任せになっていて、人事担当としてのフォローができていなかったのも反省点です。
安定雇用のためにもっとフォローをしていかなければと思ったのですが、すべてを少人数体制の人事で対応するのは困難で、外部のサポートもお借りしたい、と考えました。それがサテライトオフィス導入の検討を始めたきっかけです。
-サテライトオフィス導入の決め手となったのはどんなところでしょうか?
雇用した障がい者が相模原にあるサテライトオフィスに勤務するということで、遠隔でどのように業務を切り出すのか、セキュリティ面や運用面でフォローできるのか。これらに不安要素はありましたが、実際は杞憂でした。
運用をはじめてみると、慣れるまでは業務切り出しの打ち合わせにスタートラインのスタッフさんが同席してくれたり、採用についても手厚くサポートしてくれたりと、安心できるフォロー体制が整っていました。
また、相模原のオフィスは設備が充実している上に、常駐のスタッフさんもいるので、セキュリティや安全面でも申し分ありませんでした。相模原であれば、横浜にある本社から定期的に訪問することが可能な距離だったこともありがたいポイントでしたね。
安定就労する3名のうち、ひとりはリーダー職に
―現在、サテライトオフィスで働く障がい者の方々は、どのような業務に就いているのでしょうか?
安定就労しているのは3名の方々です。
発達障がい、てんかん、下肢障がいと、それぞれに異なる障がいがありますが、そのうちひとりはリーダー職に就いています。みなさん非常に真面目で、無断欠勤はもちろん、遅刻や早退もほとんどありません。
具体的な業務内容としては、人事、総務、経営管理部から切り出した作業をお願いしています。社員の勤怠チェック、紙でしか保持できていない情報のデータベース化、お客様に発送するレターの作成、マーケティング部門のアンケート集計業務など、実にさまざまです。
いずれも各部署からとても高評価を得ています。「こんなに早く仕上げてくれるとは思わなかった」「精度が非常に高くて驚いた」など、彼らが戦力になってくれていることは間違いないでしょう。
-遠隔での指示はどのように行なっていますか?
各部署から業務切り出しの依頼があった際、まずは私が窓口を担当しています。そこからリーダーとすり合わせをし、他の2名に落とし込みます。
ただ、すでに実績があり安定運用ができるようになってきた定型業務については、各部署の担当者とリーダー間で直接やり取りしています。
-安定運用に至るまで、意識していたことはありますか?
そもそも、安定的に働いていただくには、ちゃんと業務がなければいけません。手持ち無沙汰な状況が続いてしまうと、それだけでストレスになりますから。なので、まずは安定的にお願いできる業務を用意することが大前提です。
そこでネックになるのが、先程も申し上げた遠隔での指示です。側にいられない分、作業のマニュアルを整備しておく必要があります。
でも、現場は現場で忙しいため、そこに割く時間がないのも現状です。
そこで、サテライトオフィスにいるリーダーに、マニュアル設計からお願いすることにしました。新しい業務が発生した場合は本社まで来てもらい、引き継ぎを行う。それを相模原に持ち帰り、他の2名にも運用できるようなマニュアルを作成してもらう方法です。これは非常に助かっています。
遠隔だからこそ、モチベーション維持には気を配る
-障がい者に対し、気遣っているポイントはありますか?
障がい特性によって得意・不得意があるようなので、それぞれの特性を見極めた上で業務をお願いするように心がけています。
不得意なことを無理やりお願いするのではなく、得意なところを伸ばし、その分野のスペシャリストになってもらえれば 、と考えています。
かといって、明確に健常者と区別するようなことはしていません。現状、キャリアアップの仕方も、健常者の社員と同じシステムを導入しています。
ただし、そこには課題があることも自覚しています。同じ水準で考えるべきところがあれば、やはり配慮が必要なところもある。健常者から見ても公平性を保った上で、障がい特性に応じたキャリアプランを提示していきたいと思っています。
また、モチベーションの維持にも気を配っています。小さなオフィスで遠隔で仕事をするとなると、どうしても閉鎖的な環境になる可能性もあり、ストレスにつながります。それを防ぐために行なっているのが、外部研修への参加です。本社がある横浜市で開催されているものがあれば積極的に参加し、新しいことを学んでいただいています。
もうひとつが、現場からの声を届けること。
遠隔業務だと、「業務が終わりました」「成果物を提出しました」とやりっ放しになってしまいがちです。それでは、彼らのモチベーションも下がる一方です。そこで、現場からの感謝の声や高評価をフィードバックするようにしています。
タイミングがあえば、現場の担当者と引き合わせて、実際にコミュニケーションを図ってもらうこともあります。
サテライトオフィスを通じ、障がい者の現状を知ることができた
-サテライトオフィスの運用で得たものがあれば教えてください。
障がい者のなかにはコミュニケーションに苦手意識を持っている方が多いということを知りました。言いたいことがあっても、なかなか言えない。
隔週で面談を行なっているのですが、そこでもうまく思いを伝えられい方もいます。なので、面談では柔らかい雰囲気を演出するように意識しています。
たとえば、お菓子を食べながらざっくばらんに話したりします。そうやって関係ができてくると、本音を話してくれることがあると感じています。支援者がいる場合は、その方も面談に同席していただくこともあります。
また、そういったコミュニケーション面での知見は、面接時に役立っています。他の障がい者や一緒に働くメンバーと協業できるか、きちんと見極められるようになりました。それがわからないと、なかなか定着につながらないのでありがたい学びでしたね。
-今後、サテライトオフィスを継続的に運用していく先に、なにを目指していますか?
やはり、障がい者一人ひとりの特性を見極め、得意な領域を伸ばしていけるような会社でありたいと考えています。
そのために、まずは研修体系をしっかり作っていく必要があると思っています。
そう考えられるようになったのも、スタートラインのみなさんのおかげです。サテライトオフィスのメンバーは、本当にスタートラインのスタッフさんを信頼しています。
業務内容はもちろん、それ以外の細かな相談にも乗ってくださることで、相模原メンバーは非常に助けられているみたいです。
業務繁忙でサテライトオフィスに顔を出せないときも、スタートラインのスタッフさんがそれをカバーしてくださるので、私自身も助かっています。