自己をコントロールして会社に貢献する。障がいと向き合う力を養う研修【EIT研修受講事例】

就業を継続する上で、必要な能力を障がい者本人が自己評価し、その能力を訓練することで向上させ、就労をサポートする研修プログラム「EIT研修」(Employability Improvement Training)は、障がい者の就職後の定着率向上を目的に実施しているスタートラインの研修プログラムの一つです。

主に新世代の認知行動療法といわれている「ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)注1」と、 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センターの研究部門で開発された 「MWS(ワークサンプル幕張版)注2」の2つを用いて行っています。

EIT研修は約2、3ヶ月に一度のペースで実施しており、1回あたりの受講者は6~8名程度です。(2019年7月時点)

このたび、2019年5月21日~5月31日の期間でEIT研修が実施されました。その研修に、厚生労働省の働き方改革関連の表彰で受賞経験もある株式会社ディノス・セシール(以下、ディノス・セシール)で就労されている障がいのある社員が参加されました。

今回は、ディノス・セシールで就労されている障がいのある社員と、人事担当者に、研修前、研修後でどのような変化を感じられたかをお伺いしました。

目次

■受講者の声

なぜ自分がケアレスミスをするのか気づかせてくれた

─研修を受ける前の印象はどういったものだったでしょうか。また、受けてみてから変化はありましたか?

話を最初に聞いた時から、特に研修に対して悪い印象などはありませんでした。受ける際の不安のようなものもありませんでした。ただ、EIT研修で行うとされていた「ACT」や「MWS」は初めてお聞きする概念だったので、事前にいただいた資料を見て「どんなことをやるんだろう?」と疑問はありましたね。「よくわからない」という印象はありました。

実際に受けてみると、これらの訓練はちゃんとした理論に支えられたものであったことが理解できました。

正直に言うと、9日にわたる研修ということもあり、スパルタ的なものかなと感じていたのですが、そういうものでもなく安心して受けることができましたね。研修自体は全体を通してとても有意義なものだと感じました。また参加できるのなら受けたいくらいです。

MWSでは、なぜ自分がミスをするのか気づかせてくれて、今の仕事に、無意識に活かせている感覚があります。具体的に、なにか物事を行う際は必ず自身がミスをするポイントを確かめながら行うようになって、ケアレスミスを確実に減らせてきていると思います。

普段の業務でいうとPC作業ですね。図表の作成などを行っています。入力作業や仕分け作業の際に確認せず感覚でポンポンとやってしまっていて、その上その行動に自信があったんです。間違っていても気づけなかったんですね。そのような日頃の業務を無意識にやらず、確認しながら臨むようになりました。MWSの効果かなと思います。

あと何より、「自分を追い込んじゃいけない」という感覚が身についたと思いますね。どうしても無意識のうち、せっかちになってしまうんですよ。「一分でも早く終わらせたい」と思ってしまって。ですが、研修後にこの無意識にせっかちになっている部分を意識して気付けるようになりました。

今まで無意識にやっていた作業や「まあいいや」で済ませていたことにも「これおかしい!」「あ、今、自分急ごうとしているなあ」と気づけるようになったんです。客観性が身につきましたね。注意力が上がりました。

障がいを抱える自分を許容する。納得のいく訓練法

─講習内容はどういったものでしたか。

プログラム自体が理にかなっていて、非常に良い訓練法だと感じました。

何より面白かったですね。先程も申し上げましたが、ACTという考え方もMWSも、全く知らない概念だったので。今まで見聞きした体験と頭の中で関連付けながら受けていました。

結果として心に負担がかからなくなりましたね。自分自身を許容できるし、客観的になれる。そんな内容だったと感じています。

研修自体は、スタートラインのスタッフとマンツーマンで進められました。非常に厳しく思える課題を苦痛に思わせないスキルを持っていらっしゃったので、苦はなかったです。スタッフ自身も、ACTを実践されているなと思いましたね。相当トレーニングされているのだな…という印象でした。

めったに経験できない環境で学ばせていただいたので、満足度は高いです。
障がい者に限らず、新入社員研修に取り入れてみても効果的なんじゃないかと感じました。

障がい者に有益なのはもちろん、健常者もそれぞれ類似した苦悩をきっと抱えていると思うので。

─受ける以前、抱えていたと感じている問題をお聞かせください。

受ける以前に課題だったことは、「物事の決め事が大雑把」「細かいことが苦手」あたりでしょうか。

会社って、どうしてもそういうことをしなければいけない場所ですよね。でも、デスクワークから対人関係に至るまで、とにかく私にとって「細かい」ことが苦痛でした。「自分勝手にやっていきたい、束縛されたくない」性質を抱えていたので、どうしてもそこが噛み合わなかったんです。

しかし研修を通じて、「どんな細かいことでも、“無意識に、何となく”ではなく“脳を働かせてやる”」「物事を苦手だと完全に拒絶せず、その場その場の局面で対処していけば良い」と考えられるようになりました。

たとえば「一人前の窓の清掃員になれ」と言われたら、「絶対に無理だ」と思わず、取り組んでみる。一人前の窓の清掃員になるためにはどのような手順が必要かを、考えるようになったんですね。

―今やってみたいことはありますか?

そうですね、研修で受けたことをベースにして与えられた課題にとにかく臨んでいくことに尽きると思います。会社でわがまま言うわけにはいきませんから。

ただ、プライベートでは色々ありますよ。ここでは語りきれないくらいには挑戦したいことがたくさんできました。

研修で気づかせてくれた「自分の性質と向き合うこと」

─研修を通して、自分の中での変化はありましたか?

子どもの頃から、衝動的に何かをしてしまう性格でした。

「三つ子の魂百まで」と言いますが本当にその通りです。子どもの時ほど目立ってはいませんが、性質が変わったわけではなく残っているんですね。

以前、メンタル面を崩してしまった時にそのことにようやく気づけたんです。それがまた、自分自身への不安につながっていました。研修を通して、私が無意識に抱えてしまう不安や緊張への向き合い方が身につき、うまく折り合いがつけられるようになったと思います。

また、嫌なことがあった時にどうしても考えすぎてしまうところがありましたが、ACTのおかげで「嫌なことがあった自分を、別の自分が見ている感覚」で処理することができるようになりました。
今では仕事でもプライベートでも、嫌なことで深く考えてしまう機会が減ったと思っています。

研修では、受講者間の雰囲気も良かったです。皆さん何かを掴んで帰られたのではないでしょうか。中には、もしかしたら私以上の偏見に晒されたり葛藤されたりという方もいたと思います。ですが、ほとんどの方が研修を通じて、本来のあるべき自分に近づくことができたのではないかと。

本当に有意義な9日間でした。

■同社に勤める人事担当者の声

取り入れようと思ったきっかけは期待するような成果が出ていなかったこと

─研修を取り入れることになった経緯をお聞かせください。

やはり仕事面の不安からです。様々な仕事をお願いしてきましたがなかなかこちらが期待するような成果を出すことが難しいようでした。

チェックをする習慣も、努力はしていましたがまだ甘く、だんだんとお願いできる仕事が少なくなっていた状況だったんです。それで、手持ち無沙汰になる時間がとても多く、うっかり居眠りしてしまうようなこともありました。

そのような雰囲気が伝わっていたのか、本人も仕事に対する自信をなくしてしまっていたようです。「どんなお仕事だったらできそうですか?」と聞いてみても、「言われたことなら何でもやりますよ」と、投げやりな言葉しか返ってこなくて。

弊社には他にも、障がい者の社員がおります。皆しっかりと弊社で結果を出してくれています。ではなぜ彼がその社員たちと違うかというと、弊社に入社してから障がい者手帳を取得したからだと考えたんです。

他の障がい者の社員は、学校を出てから就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターを利用し、自分の得意なこと・不得意なことがわかっています。ですから、どの様な仕事を渡せばいいかがこちらもわかっていますし、本人も自分自身の注意すべき点がわかっているんです。

彼の場合は訓練も何も受けていないので、手探りで仕事をお願いしている状況でした。では訓練したら良いのではないかと思い、EIT研修に参加してもらうことにしたんです。

正直なところを申し上げると、藁にもすがる思いでした。

─取り入れる前の研修に対する印象と、その後の印象に違いはありましたか?

研修に対しては、最初のうちはイメージがほぼわかなかったです。資料を見て「良さそうだな」と感じるぐらいで。

ただ、実際見学してみると衝撃的でしたね。一人ひとりにしっかりと目が行き届いており、かつフィードバックも細かく、私が知っている研修とは知らない世界でした。良い意味でギャップを感じましたね。

自分の得意・不得意な分野を把握して会社で活躍してほしいという思い

―研修前には実際にどのような問題が発生していましたか?

今までは、自分の苦手な分野になると途端に手がつけづらくなるようでした。かと言って「この仕事ができません」と言ってくれることもないため、しばらく経って進捗を聞いてみたら、「できてません」とその時に発覚することがたびたび起こっていたんです。その点は問題だったと思います。

また、仕事でミスが多発していたのですが、そもそも「ミスをしている」という認識を持っていないようでした。「自分はできている」と思っていたんですね。ひとつひとつは本当に単純なミスなんです。

たとえば同じお取引先からの、内容が違う契約書を、会社名が同じだったことから同じ契約書と認識して処理してしまったため問題が起きてしまったり、エクセルの管理で「○」「×」と入力するところ、「○」を楕円で入力してしまったり、少し注意していればすぐにわかることばかりでした。

だからか、仕事を依頼する側も、なかなか効果的なフィードバックをすることができなかったんです。結局、依頼者自身が修正し、「この仕事は任せられない」と評価してしまう。

その結果、どんどんお願いする仕事が減るという悪いスパイラルに陥っていました。

─研修後にどういった変化を期待していましたか?

もちろんこちらがお願いする仕事をミスなくできるようになってほしい、とは思っていましたが、最も期待していた変化は、自身の障がいを認識し受け入れて、自身の得意な部分、不得意な部分を理解してもらうことです。

また、その理解を踏まえて会社でどのように活躍できるかを模索し、前向きな気持ちを持ってもらいたいなと思っていました。

感情をコントロールしながらの作業でミスや多かった独り言がほとんどなくなった

─実際に期待していたような変化を感じましたか?

はい。最も変化を感じた部分は、チェックの仕方です。指差しで確認したり、声に出して確認したりと、習ったことをすべて実践していてほとんどミスがありません。先日は住民税の書類の封入をお願いしました。

作業工程としては、封筒の印刷、中身や名簿チェックなどがあります。300件ぐらいの数があったため、プレッシャーをかけないよう、1週間ほど余裕を見ていたんです。

しかし、その作業を1日で終わらせてくれました。本当にびっくりしましたし、非常に嬉しい変化でしたね。落ち着いて感情をコントロールしながら作業を行っているので、以前は多かった独り言はほとんどなくなりました。

もっとわかりやすい変化でいうと、居眠りはしなくなりましたし、行動をするようになりました。

以前から「障害者就業・生活支援センターに行ってほしい」と言っていたのですが、なかなか腰が重く行動に移せなかったようです。プライベートの時間中に仕事のことを考えたくないといった思いもあったかもしれません。

しかし先日、度が合っていなかったメガネを「変えてみましょうか」と雑談の中で話に出たところすぐに変えてきてくれたんです。とても大きな変化だと感じました。

―本人からはどのような言葉がありましたか?

研修にとても感謝していました。「納得した」ともよく言っていましたね。

前向きな変化が少しずつ周りにも良い雰囲気を生み出している

─満足度はどれぐらいですか?

90%以上です。とても前向きになって、周りも少しずつ「仕事を任せていこう」という雰囲気に変化してきています。

このまま良い方向に進んでいきたいなと。

─今後のことをお聞かせください。

今、新しい仕事として、「会議室を利用した際はこのように元の状態に戻してください」と社員に伝える図の作成を実施いただいてます。

そのための各会議室の椅子や机を数えて、エクセルに情報をまとめる事務作業なども含めてお願いしているんです。この仕事の次にもやってもらいたいことがある、と話がきているので、これからどんどん彼の仕事は増えていくと思います。

このまま「会社への貢献」を実感できるぐらいまで、仕事をお願いできるようになればと考えています。

注1:ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)

認知行動療法の「第三の波」のひとつとされる最新の科学的な心理療法です。人の心の動きに関する基礎的な研究成果に基づいており、主にうつ病などの精神医療の治療・援助に用いられています。ACTは2000年頃から心理療法として欧米に広まり、現在では日本も含め急速に世界中に広がっています。

注2:MWS(ワークサンプル幕張版)

ワークサンプルの名称です。OA作業、事務作業、実務作業に大別された13種類によって構成されています。簡易版と訓練版に分かれ、作業の疑似体験や職業上の課題を把握する評価ツールとしてだけでなく、作業遂行力の向上や障害の補完方法の活用に向けた支援ツールとして使うことができます。各ワークサンプルとも、十分な課題分析に基づき、難易度を設定しているので、簡単なレベルから難しいレベルへ進めることができます。また、企業や各就労支援機関(教育、医療、福祉、職業リハビリテーション機関等)においてMWSが活用されることにより、支援対象者の有する課題や支援の方向性に対する共通認識が円滑に形成され、機関連携の実効性が高まっていきます。
(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター研究支援部門 HP参照)


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Startline編集部

この記事は株式会社スタートラインの社員および専門ライターによって執筆されています。障害者雇用の役に立つさまざまなノウハウを発信中。