首都圏の劇場やホールにおいて、幅広い舞台技術サービスを提供している株式会社パシフィックアートセンター(以下、パシフィックアートセンター)。
屋内農園型障害者雇用支援サービスIBUKI(以下、IBUKI)を約4年ご利用いただく中で「障害者を特別扱いしない」ことを学んだ導入事例を伺いました。(取材日:2022年12月)
▼インタビューを受けてくださった方
株式会社パシフィックアートセンター
取締役 福島和久氏(写真右)
運営統括本部 人材開発部 ゼネラルマネージャー 深井一彦氏(写真左)
従業員数 | 業種 |
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505名(2022年12月現在) | エンターテイメント |
IBUKI導入前の悩み |
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・障害者が安心して働きやすい環境を、舞台施設管理の業務では用意することが困難だった |
IBUKI導入後の効果 |
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・雇用経験の少なかった精神障害者の採用・雇用を通じ、障害特性について深く学ぶことができた ・IBUKIでの雇用を行う中で『特別扱いしない』接し方を学ぶことが出来た ・IBUKIを通じ、多様な働き方があることが、社会にとっても重要であることを学んだ |
パシフィックアートセンターの導入当時のセミナーレポートと併せてご覧ください。
>安定した業務量と安全な労働環境! 屋内農園型障がい者雇用支援サービスIBUKI【パシフィックアートセンター導入事例】
IBUKIは『特別な場所』ではなく、『事業所の一つ』
―――IBUKIをご利用いただいて約4年、2022年にはご利用区画を1区画から2区画へ拡張いただきました。
拡張を決めた理由は、障害のある社員が安定して働きやすい環境での雇用創出を行いたいと考えたからです。
当社で働く多くの社員は舞台施設の大道具や照明など、いわゆる現場で働く社員がほとんどです。
業務切り出しを行うイメージが湧きづらく、かといって現場の環境は障害のある社員にとって働きやすい環境かと考えると、そうではない面も多くあります。
IBUKI以外の農園型サービスも見学しましたが、屋外の場合、厳しい暑さや寒さも予想される就業環境となるため、屋内の安定した環境で働くことのできるIBUKIを選択しました。
―――本社から離れた場所で障害のある社員を雇用することに不安はありませんでしたか?
特にありませんでした。当社の社員は様々な舞台施設で勤務していますので、IBUKIは『障害のある社員が働く特別な場所』ではなく『当社の社員が働く事業所の一つ』としてとらえています。
不安ではありませんが、当社は知的障害者や精神障害者の雇用経験があまりなかったため、どのように関わっていくのがよいか、迷うことがありました。
しかし、IBUKIを導入し、スタートラインのIBUKIサポートスタッフ(以下、サポーター)が障害のある方と接する姿を見て『特別扱いをしない』ことを体感で学んでいきました。
―――『特別扱いしない』とはどのようなことでしょうか?
例えば『障害があるから特別優しく接する』必要はなく『同じ仲間として注意すべきことは注意する』などです。当時は雇用経験がなかったため、過剰に考えすぎていたのだと思います。
障害や障害特性により、企業側の配慮が当然必要な場面もあります。しかし、障害の有無で過度に接し方を変えるのは、失礼なことです。業務上必要なことは注意するし、雑談や冗談も言い合う。
そんな当然のことを、サポーターが障害のある方と接している姿から学びました。
障害のある社員の『自立をサポートする』想いに共感
IBUKIファーム訪問時や月次報告書などから、サポーターは障害がある社員一人ひとりを、本当に丁寧に見ているということが伝わってきます。
また、導入当初、あるサポーターに「障害のある社員には、ご自身で働くこと、そしてこの仕事を選んだのだから、『働く意識』を持って欲しい。私たちもご本人が『自立して働くこと』ができるよう精一杯サポートします!」と言われました。
共生社会の実現という同じ想いを共有出来たので、IBUKIというはじめての取り組みについての不安はなくなりました。
―――IBUKIで働く障害のある社員の今後のキャリアはどのように考えていらっしゃいますか?
一人ひとり考え方は様々なので、共に考えていくことが大切だと考えています。キャリアを一律で決めず、その人の目標に合わせてステップアップできるような環境を用意していきたいと思っています。
また、働く中で新たな目標を見つけ、IBUKIを卒業することがあるかもしれません。IBUKIで働いたからこそ生まれたその選択肢は、その方にとっても社会にとっても、素晴らしい選択肢の一つであると考えます。
そのようなキャリアを目指す方がいらっしゃれば、当社としても全力で応援していきたいです。
共生社会の実現のために、当社の障害者雇用を発信していきたい
―――現在、IBUKIではどのような成果物を製作していますか?
主にハーブティーを製作しています。
企業訪問の際のノベルティとして役員や社員が配布したり、社内でも各部署や事業所に配布して活用し、社内外から「美味しい」と評判の声をいただいております。
また、今までは捨てていたハーブの茎なども再利用し、香り袋(ポプリ)も作りはじめました。香り袋を作ることでゴミの量を減らすことができ、SDGs活動にも繋がった取り組みとなっています。
日々、試行錯誤を繰り返しながら、新たなハーブティーの配合の研究や、野菜を実験的に育ててみるなど、IBUKIファームでは自主性を持って仕事をしてもらっています。
時には上手くいかないこともあります。しかしその上手くいかなかった経験があるからこそ、得られるものもあります。どうしてこの事象が起きたのか、今後出来る対策はなんだろうか、どのように改善していけばよいか。
そうやって振り返り、考え、改善し、実行する『学び』は、仕事で得られる大きな成果の一つではないでしょうか。
IBUKIで働く社員には、仕事を通じて学んだことを活かし、これからも積極的なチャレンジをしてほしいと考えています。
そしてその成果物の活用をIBUKIファームへフィードバックし、より新しい成果物の製作を行うなど、働くモチベーションをもっと上げていきたいと考えています。
―――今後はどのような障害者雇用を行いたいと考えていますか?
障害者や障害者雇用への理解は、まだまだ伸びしろのある状況だと感じています。様々な人が暮らし、働いていることへの理解が深まれば、共生社会の実現に繋がると信じています。
また、様々な働き方の選択肢があることが社会にとっても大切ではないかと考えます。障害や障害特性が一人ひとり異なるものであるのと同じように、働きやすさも、それぞれ異なるのではないでしょうか。
障害の有無に関わらず、一人ひとりが生き生きと暮らす社会を実現するため、当社の障害者雇用の取り組みを社内外へ積極的に発信したいと考えています。