障がい者の「育成」をサポートする新しいワークスタイル「循環型就労」とは?

2019年11月現在、国内には900万人ほどの障がい者がいると言われています。そのうち、障害者手帳を持っているのは約600万人。そして、18~64歳という労働人口で見てみると、200万人ほどです。

そしてこの200万人のうち、実際に働いているのは56万人ほどだと言われています。多くの方が働いていない、あるいは働けていないのが現状なのです。

なかでも、多くなっているのは精神障がい者です。精神障がい者の雇用に対し、「育成」という観点を持ちながら、どのように雇用していくのか。これが多くの企業の抱える課題ではないでしょうか。

この「育成」を主眼に据えながら、企業の障がい者雇用を促進するのが、株式会社スタートライン(以下、スタートライン)が提案する、「循環型就労」です。果たして、「循環型就労」とはどういったワークスタイルなのか。

先日(2019年11月)開催された「HRカンファレンス2019-秋-[東京]」におけるスタートラインの報告をもとに、新しい時代の障がい者雇用について考えてみましょう。

目次


1年後にその半数が退職してしまう、精神障がい者たち

精神障がい者は、その半数が入社後、1年以内に退職してしまうのが実情です。ただし、専門的な支援があった場合、その定着率が2割ほど上がるといわれています。つまり、支援しながら育てていくという「育成」の観点を持つことで、退職率が抑えられるのです。

実際に現場で精神障がい者と働く人たちのなかには、どのように「育成」を進めていけばいいのか悩まれる人が多くいますが、障がい者雇用だからといって何か特段肩に力を入れる必要はなく、新卒や中途採用の育成と同じように、1人ひとりと向き合い、話し合い、育成を進めていくことが大切です。

今回は実際に取り組んでいる「育成」の事例を基に、ひとつの答えを提示したいと思います。

精神障がい者の「育成」で重要な、4つのポイント

精神障がい者の「育成」で重要なのは、「アセスメント」「コーチング」「支援体制構築」「目標管理」といった4つです。

1.「アセスメント」
障がい状況を確認するために、業務遂行力と障がい受容を把握することが大切です。ストレスのかかる苦手な業務では不調のサインに気づくこと、また気づけずに不調になってしまったときには、どのように対処するのかが大事なので、スタートラインでは入社後のアセスメントを重視しています。

アセスメント結果から「甘え」と「配慮」を明確にし、必要な「合理的配慮」を提供する為、本人との対話が必要です。スタートラインではエクセルのシートを用いて、配慮事項を明確にしていくだけではなく体調や環境に合わせて配慮事項を常にアップデートしていきます。変化に対応していくことが大切です。

2.「コーチング」
ここでのコーチングとは、企業が実践する定期面談です。日常生活や体調・メンタル面、業務進捗の確認など、状況の把握を中心に進める面談が多いのですが本人の気づきや自己理解を深めるような面談を行うことがポイントです。本人も気づいていない「自身の傾向」を通して自己理解を深めることができます。このポイントを押さえるとセルフマネジメント力の向上にも繋げることができるでしょう。

また、「こころ」とどのように付き合っていくのかというアプローチも重要です。スタートラインではACT(Acceptance & Commitment Therapy 注1)を用いて、豊かで充実した有意義な生活を送り、日常につきまとう痛みやストレスへの効果的な対処法を学んでおります。精神障がい者においては、ネガティブな思考に囚われてしまいメンタル不調になることが課題のひとつです。支援者はACTのエクササイズや応用行動分析学を用いて、セルフマネジメント力の向上を支援することができます。

3.「支援体制構築」
こちらは障がい者ではなく、管理者の話になるのですが、障がい者雇用の現場では、どうしても管理者がひとりで悩みを抱えてしまいがちです。障がい者1人ひとりと向き合うからこそ悩みを抱えてしまう課題がある一方、業務マネジメントをするための体制構築も今後の大きな課題です。

課題解決のためには、働くうえで必要な情報共有が必要です。障がい者は周囲に迷惑をかけないよう、自分の障がいをどこまでオープンにするべきか悩まれているケースが多く、管理者も情報開示の必要性は理解しつつも、誰にいつなにを開示すべきかの判断に迷われています。

ポイントとなるのは、障がい者と仕事で関わる身近な人たちの存在です。仕事に必要な合理的配慮を提供するためにも、身近な人たちへ障がいをオープンにすることで 、より一層仕事をしやすい環境や体制を構築することができます。

一方、注意するべきポイントとして、ご本人の同意がない場合や、同意があっても多くの方に無理に開示する必要はありません。職場や仕事に合わせた支援体制を構築していけば良いのです。

4.「目標管理」
目標管理を設定する場合には、1から4の就業フェーズを意識する必要があります。

  • フェーズ1 「手厚い支援」を意識する
  • フェーズ2 個人の考えを引き出す
  • フェーズ3 前に進む力を引き出し、目標を設定する
  • フェーズ4 目標の達成・成長を実感する

上記、4つの就業フェーズに分けることができます。

フェーズ1は、障がい者はご自身の体調に不安を持っていますので、 全体的に手厚い支援が必要となります。企業だけで手厚い支援を進めることが難しい場合、外部リソースを活用し状況に合わせたフィードバックを取り入れることは育成にとってとても有効です。フェーズ1の後半になると、セルフマネジメント力が身についているので、フェーズ2、フェーズ3へと進んでいきます。

支援する前のポイントは、2つあります。

  • ①雇用する企業側が障がい者に「安心できる環境」を提供できているか
  • ②障がい者ご自身が企業から「必要とされている実感」を提供できているか

この2つが満たされてないとなかなかフェーズを進めることはできません。就業フェーズを見極め、目標設置を行い、適切なフィードバックを意識しましょう。

障がい者のキャリアプラン形成にも役立つ「循環型就労」

スタートラインでは、障がい者に対して「循環型就労」という新しいワークスタイルを提案しています。これは実際にインクルMARUNOUCHI(以下、インクル)で取り入れている働き方のスタイルです。

障がい者のオフィスワークが変わる「インクルMARUNOUCHI」とは?
https://start-line.jp/business/inclu_marunouchi

インクルではスタートラインのサポーターが常駐するサポートオフィスを展開しています。サービスを利用する企業の ブースでテレワークを行う障がい者を支援しています。日々の面談やイレギュラーな事例にも対応しており、企業と連携する形で、障がい者雇用を進めているのです。

そこで実践している「循環型就労」とは、サポートオフィスに勤務する障がい者が本社へ出向いたり、管理者がサポートオフィスに足を運んだりするスタイルのことです。

なぜ「循環型就労」が良いのか。それは「循環型就労」を通して効果的に就業フェーズを進められることです。たとえば週3日はインクルMARUNOUCHIで働き、週2日は本社勤務をするというようなスタイル。セルフマネジメント力を身に着けるまではインクルで就業するようなコンディションに合わせた働き方にも対応可能です。

入社当初、精神障がい者は自分の体調に不安を抱えており、仕事が手につかないことが起こりえるのですが、インクルでスタートラインのサポーターが側にいる環境を準備することで、安定就労でき1年後に本社異動するという目標を見据えてもらうことができます。

それに伴い、難しいと言われている障がい者のキャリアプランも形成しやすいと言えます。たとえば、1年後の本社勤務に向かって、セルフマネジメント力や業務遂行能力を伸ばし、本社勤務を目指すようなキャリアプランを形成する、というような働き方です。障がい者雇用においては、「育成」が重要なのです。
そのひとつの形が、インクルで実現する「循環型就労」なのです。

このように、スタートラインが提案する「循環型就労」という新しいワークスタイルを活用することで、障がい者の雇用だけではなく、育成における問題も解決することができます。そして、障がい者がいきいきと働ける環境を準備することは、企業の価値にもつながっていくものになります。

注1:ACT(Acceptance & Commitment Therapy)

認知行動療法の「第三の波」のひとつとされる最新の科学的な心理療法です。人の心の動きに関する基礎的な研究成果に基づいており、主にうつ病などの精神医療の治療・援助に用いられています。ACTは2000年頃から心理療法として欧米に広まり、現在では日本も含め急速に世界中に広がっています。


この記事を書いた人

Avatar photo

Startline編集部

この記事は株式会社スタートラインの社員および専門ライターによって執筆されています。障害者雇用の役に立つさまざまなノウハウを発信中。