「働き方改革」×「障がい者雇用」のひとつの答え「インクルMARUNOUCHI」―立ち上げの思いと障がい者雇用の実情に迫る

近年、日本では一人ひとりの多様性を尊重した効率的な働き方ができるよう、「働き方改革」が推し進められています。これは障がい者雇用にも通ずる大きなテーマで、障がい者雇用を働き方改革の一環としてとらえられている企業も多いことでしょう。

「インクルMARUNOUCHI」は株式会社スタートライン(以下、スタートライン)と三菱地所グループが協業で立ち上げた障がい者の働き方を提供する拠点です。特徴の1つとしてハード面・ソフト面の整った「サポーター常駐型サポートオフィス」が常設されており、メンタル面に不安のある障がい者でも安心して活き活きと働くことができます。

最近では「循環型モデル」という新しい働き方を提供し、本社とインクルMARUNOUCHIを行き来しながら就業することで業務の拡大や本社雇用の促進を展開しています。

障がい者のオフィスワークが変わる「インクルMARUNOUCHI」とは?

なぜ日本のオフィス街の中心地である東京・丸の内にこのような施設がオープンしたのか。

そこには、2017年からスタートラインの提供する「障がい者向けサテライトオフィスサービス(以下、サテライトオフィス)」を利用している、三菱地所プロパティマネジメント株式会社の業務企画部長、前田正之氏の障がい者雇用に対する熱い思いがありました。

そこで今回は、「働き方改革」×「障がい者雇用」を主軸に前田氏へのインタビューを敢行。三菱地所プロパティマネジメント株式会社としての障がい者雇用に対しての様々な取り組みや、「インクルMARUNOUCHI」の立ち上げの経緯などを伺いました。部署間の責任問題、人手不足、社会福祉と実益……現代日本のビジネスシーンにおける課題を交えながら「障がい者を雇用すること」を真剣に考えます。

目次


問題になっていた「定着率」と「法定雇用率」

―障がい者雇用に対して、どのような取り組みをされてきたのでしょうか?

従前より身体障がい者をメインに、精神障がい者や発達障がい者の雇用を推し進めています。ただ、定着率がそれほど高くなく、課題となっていました。当時は総務部長の役割を担っていたこともあり、この課題解消の為に2017年の5月からスタートラインの「サテライトオフィス」の利用を開始しました。

―御社は働き方改革に力を入れているとのことですが、障がい者雇用に対する取り組みもその一環だったのでしょうか?

そうですね。2016年から働き方改革への気運が高まり、社員の働き方について考える機会が増えました。単純に残業を減らすだけでなく、活き活きと働ける環境づくりをするために、たくさんの社員に話を聞きましたね。

その中でよく話にあがったのが、定型業務の煩雑さです。クリエイティブな仕事をしていくために、定型業務の整理が必要だなと感じました。そこで、定型業務の外注や他の組織体への委託を考え始めたのです。

また、同時に問題となっていたのが弊社の障がい者の雇用率で、1.53%と法定雇用率を下回っていました。1000名を超える社員を有する企業としての社会的責任を果たすためにも障がい者雇用を推し進めていく必要があると感じていましたね。

さらに当時、「コミュニケーションが苦手な一方、静かで集中できる環境であれば十二分に能力を発揮できる人たちがいる」ということを、様々な現場を拝見することで学ぶ機会もありました。その結果、働き方改革と障がい者雇用をかけ合わせ、新宿サテライトオフィスを利用することにしたのです。

―障がい者雇用には、農業や在宅など様々な選択肢がありますが、なぜサテライトオフィスを利用しようと考えたのでしょうか?

「実業」と絡めることを考えると、サテライトオフィスが最も理想的な形だと感じたからです。また、働き方改革を進めるにあたって、最も負荷がかかるのはマネジメント層です。

サテライトオフィスを利用することによって、マネジメント層の業務負荷を減らす効果があると感じたため、踏み出すことができました。

また、弊社で働いている健常者と障がい者のやりとりを見ていて、「配慮」の難しさも実感したのも大きいです。もちろん人と人は異なる考え方を持っていますから、たとえ健常者同士であっても配慮をせずに済むということはありません。

ただ、何の気なしにかけた一言が障がい者にとって震え上がってしまうような一言であることもあり、その結果業務に支障をきたすこともあるということを、経験を通じて知りました。とは言え、そのような一言一言を「言ってはいけません」と禁止していたら、障がい者雇用に対してマイナスなイメージが生まれてしまいます。そのようなジレンマの解決法として、サテライトオフィスは有用だと感じました。

―実際に利用してみていかがでしたか?

正直私自身、統合失調症などの精神疾患のある方に対して不安な気持ちがなかったと言えば嘘になります。

ただ、スタートラインさんは、障がい者雇用のプロなので、障がい特性や服薬状況、症状なども含めて細かく伝えてくれますし、適切なアドバイスをしてくれています。スタートラインさんが後ろにいてくれる、サポートをしてくれているということで、不安感を一掃することができました。

サテライトオフィス導入後、明確に残業時間減り収益が増加

―サテライトオフィスで働く社員に「こういった仕事を任せていこう」というビジョンはあったのでしょうか?

ありました。具体的には、契約書の電子化や支払い関係の整理などですね。

本来であれば、雇用の話になりますので、業務の切り出しなども含めて人事部が進めていくところだと思います。

しかし人事部は人事のスペシャリストであるものの、様々な業務の詳細を理解しているわけではありません。
当時私は総務部に在籍していましたが、業務企画部など他部署を渡り歩いており、会社の全体像をある程度把握できていました。そのような人間が関わっていないと、業務の切り出しは難しかったのではないかと考えています。

―業務の切り出しに苦労した点はありましたか?

契約書の電子化がメインストリームになると考えていましたが、様々な事情がありすぐに取り掛かることができなかったため、最初は支払い関連の業務のみをお願いしていました。

しかし、予想以上のスピードで進めてもらったため、100時間くらいの工数がかかるだろうと思っていたものが30時間ほどで完了してしまったんです。では残りの70時間ほどどうしよう、という話になり、後追いで業務を切り出す必要がありました。正確には苦労ではないかもしれませんが、大変ではありましたね。

―サテライトオフィス導入前、社内では障がい者雇用への理解はありましたか?

正直に申し上げると、障がい者雇用に対してポジティブだったかと言われるとそうではありませんでした。障害者雇用促進法に基づいて「採用しなければならない」という認識で、どちらかというと受け身でしたね。

とくに精神障がい者に対しては、定着率の悪化につながるような感情的な問題があったと感じています。

唯一定着率が良かったのが、総務部です。長い方ですと5、6年働いてもらっています。そこで気づいたのが、いかにルーティン業務を作り出せるかということです。総務部はもともとルーティン化された業務が多かったので、そこが大きな違いだったかなと。

―導入後、障がい者雇用への理解の変化はありましたか?

弊社では障がい者のチームをビジネスサポートチームと呼んでいます。ビジネスサポートチームへは各部署から業務を切り出して移管していますので、認知度はかなりあがってきていると感じていますね。

加えて、働き方改革の一面として、弊社では「集中事務センター構想」という取り組みを立ち上げました。

これは各部署で困っている業務を相談してもらい、RPAやAIなどのITで解決するという、業務改善、生産性の向上を図るための施策です。業務を切り出して障がい者のチームにお願いし効率化していくのもその一環と理解されているため、ポジティブに受け入れられつつあると思います。

―サテライトオフィスを導入したことによる成果は感じていますか?

本社の従業員の残業時間が明確に減りました。業務の見直しも行ったので、作業の効率化も図れたと感じています。

また、5年前と比べると、昨年度の営業収益が30%超になっています。もちろん働き方改革だけの成果ではありませんが、一助になっていることは確かです。

―御社の障がいのある社員との印象的なエピソードはありますか?

たとえば、歓送迎会を開く際、不必要は配慮で誘うのを躊躇するのではなく、特有の価値観をもっている障がいの持つそれぞれの方が「私はお酒が飲めないのでジュースだけ」「私は9時までには帰りたいので途中離席します」「私はたくさんお酒を飲みたいです」「明日のことを考え、欠席します」と各自で判断し、しっかりとそれを上長に伝え、上長も一緒に働く他のメンバーも、そういう意思を普通に受け止めることができたことに、会社としての成長を感じました。

障がい者雇用における情報発信のハブ「インクルMARUNOUCHI」が街にあることの重要性

―そのような経験の後、「インクルMARUNOUCHI」の立ち上げに携わられました。設立のきっかけをお聞かせください。

サテライトオフィスを利用させていただき、スタートラインさんが提供されているサービスは本当に素晴らしいと感じました。障がい者雇用を「社会福祉」の切り口で考えると、様々な価値観がぶつかってしまいます。

一営利企業として、障がい者雇用に対して志を高く持って業務を展開しているところに感銘を受けましたね。

スタートラインさんとお話をしていく中で、やはり障がい者雇用は企業が持つ共通の社会的課題だと認識しました。

弊社の本業は不動産ですが、街の機能として、「インクルMARUNOUCHI」のような施設があること、また、障がい者雇用の情報発信をしていくハブとなるような施設があることの重要性を感じ、丸の内という場所で「インクルMARUNOUCHI」のような拠点を開設したいと考えました。

―「インクルMARUNOUCHI」の具体的な目標はありましたか?

ダイバーシティの考え方が弊社の街づくりには大切な要素になります。ビジネスシーンに中心地である丸の内という場所で、色んな方が多様な価値観を持って、充実して働ける場所を、と考えていました。

そういう意味では、障がい者だけではなく、その周りにいる全ての人が輝きながら働ける街づくりを、という目標がありましたね。

人手不足解消のため、どの企業も障がい者雇用に向き合わなければならない日が訪れる

―「インクルMARUNOUCHI」立ち上げ後、ご自身の障がい者に対する意識に変化はありましたか?

弊社も「インクルMARUNOUCHI」を利用していますが、「障がい者だから」という意識が薄くなってきましたね。他の社員と同様の、大事な戦力なんです。現在総務部には10名の障がい者がおり、現在もどんどん採用を進めています。

8割が発達障がい者です。精神障がい者や発達障がい者は社会としてなかなか採用が進んでいませんが、雇用者と企業のミスマッチがない中で「インクルMARUNOUCHI」のような施設を利用すれば、集中して業務を進めてもらえるということがわかりました。本当に今では欠かせない戦力です。

―障がい者雇用に対して、どのようなビジョンをお持ちですか?

先程「集中事務センター構想」のお話もしましたが、これからも障がい者雇用は拡大していくと思います。定型業務はお任せして、他の方は異なるフィールドで働いてもらえるように進めていきたいです。

また、民間企業の法定雇用率は2021年3月末までに2.3%になることが決まっています。障がい者を雇用する上で法定雇用率はやはり切っても切れない関係ですので、これからさらに上がっていくであろう法定雇用率にも対応していくつもりです。

―社会全体の障がい者雇用に対しての思いはありますか?

どの企業も人手不足が大きな課題だと思います。従来と同じ様な構成で業務を行うのは限界だという実感があると思うんです。

そのため障がい者雇用としっかり向き合うことは、課題解決の一つの方法になります。少なくとも、弊社においては大事な戦力ですので。

人手不足は社会全体の課題となりつつあるため、人手不足を「なんとなく」しか実感していない企業でも、近い将来に向き合わなければならない時がくると思います。その未来に向けて、早いうちから自社にマッチした人材を確保することは得策ではないでしょうか。

―今後の目標をお聞かせください。

従来の評価制度では合わない部分があるので、障がいのある社員に対する評価制度をもっと整備していきたいですね。

障がい者はそれぞれの得意分野がありますし、体調の波もあります。定量的に判断していくのか、定性的な基準を設けるのかというのはまだ考えているところです。

【20名限定/参加費無料】障がい者雇用の新しいカタチ!「循環型」の働き方セミナー開催!

今回、インタビューさせていただいた三菱地所プロパティマネジメント株式会社 業務企画部長 前田正之 様にもご登壇していただきます。

テーマ:障がい者雇用の新しいカタチ!「循環型」の働き方とは
日 時:2019年10月23日(水)16:00~17:30
会 場:インクル MARUNOUCHI
住 所:東京都千代田区丸の内3丁目4番1号 新国際ビル5階 536区

こちらのセミナーは終了いたしました


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Startline編集部

この記事は株式会社スタートラインの社員および専門ライターによって執筆されています。障害者雇用の役に立つさまざまなノウハウを発信中。