一定数以上の従業員を抱える事業主には、障がい者の雇用が義務付けられています。この法定雇用率は、民間企業の場合、将来的に2.3%まで上昇することが決まっており、到達しない場合は行政指導が入ることもあり得ます。そのため民間企業は、この数値をターゲットに障がい者雇用に取り組んでいく必要があります。
障がい者の雇用や就労には適切なサポートが必要ですが、職域や個別の対応を工夫すれば活躍できる方がたくさんいらっしゃいます。しかし自社のリソースのみでこの方たちを探して採用し、就労環境を整えるには大変な労力が必要なのも事実です。
この課題を解決するのが、株式会社スタートライン(以下、スタートライン)が提供する「障がい者向けサテライトオフィスサービス」を利用し特例子会社を設立する、という方法です。スタートラインの「障がい者向けサテライトオフィスサービス」は東京・埼玉・神奈川に複数の拠点を持っています。完全バリアフリーであり、スタートラインの常駐スタッフからのサポートを受けられるため、身体・知的・精神のいずれの障がいをお持ちの方でも安心して就業できます。
今回はこの方法で、「障がい者向けサテライトオフィスサービス」を利用し相模原市に特例子会社「みらかキャスト株式会社(以下、みらかキャスト)」を設立した「みらかホールディングス株式会社(以下、みらかHD)」に、サテライトオフィスの利点や特例子会社設立の経緯を「HRカンファレンス2019-春-[東京]」にてうかがいました。
目次
特例子会社設立で、安定した障がい者雇用を実現
―今回、特例子会社の設立という手段を選ばれた理由を教えてください。
スタートラインに特例子会社設立のコンサルティングを依頼したのは、現場での難しい様々な問題を一挙に解決できるからです。
例えば、管理者の問題。一般企業には人事異動があります。そうするとある管理者は障がい者のマネジメントに理解があったとしても、異動してきた後任者の理解が薄いという可能性もありえます。
その点、特例子会社は一つの同じ場所で、周りの多くは障がい者、管理者も理解があるということが前提です。その環境を実現できれば、採用した人が辞める確率も低くなると感じたのです。そういった狙いを持って、特例子会社の設立を選択いたしました。
―スタートラインをパートナーにご選択いただいたきっかけを教えてください。
スタートラインとの関わりとしては、グループ会社の「日本ステリ株式会社(以下、日本ステリ)」ですでにサテライトオフィスを活用していたという実績がありました。
相模原のオフィスで、もともと5人が働いていました。大きな試みですので、スタートラインのほか、数社と比較検討して判断しました。
とはいえ、特例子会社設立に関するノウハウは持ち合わせていないため、それなりの工数がかかります。しかも、特例子会社設立の業務だけを行う人員を割くわけにもいかないため、通常の業務をこなしながらです。できるだけ工数は削減したいし、遅延することなく立ち上げを完了させたい。複数社選択した中で、決め手となったのは、スタートラインのサポート力でした。
実際にスタートラインは我々に寄り添って、的確にサポートしてくれました。
4月に立ち上がった会社「みらかキャスト」も相模原のスタートラインの「障がい者向けサテライトオフィスサービス」を利用していることもあり、「みらかキャスト」はサポートなしでは成り立っていかないと感じています。
なお、現在は「日本ステリ」に所属していた障がい者も「みらかキャスト」に転籍し、併せてサポートをお願いしています。
スタートラインが第三者の位置で「駆け込み寺」に
―これまでサテライトオフィスの管理をされていた中で、苦労された点などの実体験をうかがえますか。
働いている障がい者の中には、精神障がい者も身体障がい者もいます。
また、障がいの度合いもそれぞれ異なるので、仕事のスピードも、できる範囲も変わってきます。障がいの程度によってやりやすいこと、難しいことがあるのです。
当時は、「なぜできないんだ」と不満をぶつけてしまうことがありました。中には、業務上の行き違いで言い争いになった時に、当事者ではなく言い争いを聞いていた隣の方がショックを受けてしまうということもありましたね。精神障がい者は、そのように周りの環境に影響を受けてしまう傾向があるそうです。
慣れてくれば理解が生まれて問題が起こることは少なくなってくるのですが、それまでが大変だと感じます。実際、このような問題が発生し、継続が難しくなって途中で退職されたり、御本人の体調が悪化して退職されたりということもありました。
―それらの課題にどう対処されてきたのでしょうか。
自社のみで進めていた頃は、現場の管理を、60歳を超えたマネジメント経験者に行ってもらっていました。しかし障がい者の方へのマネジメント経験がなかったので、言葉の伝え方に悩んでしまい、上手くいかなかったのです。
その点、スタートラインの「障がい者向けサテライトオフィスサービス」では、オフィス内にスタートラインのスタッフが駐在しているので、管理者も障がい者もすぐに相談に行くことができます。相談にのっていただいたり、本社とサテライトオフィスの社員間の調整をしていただいたり、非常に助けていただきました。
―障がい者が安定して就労するには、フォロー体制が重要ということですね。
そうですね。専門家を雇ったり、当社で専門の管理者を育成すれば、フォロー体制を構築できたかもしれません。
最初のうちはサポートなどを頼まずに、自社内で完結して障がい者雇用を実現しようと考えていましたが、検討の結果難しかったため、スタートラインにサポートをお願いすることにした、という経緯があります。
結果として、障がい者にとっても、業務上の上司とは違う第三者に、駆け込み寺的に相談でき、本音を吐けるというメリットがあるようです。
―いつでも相談できる、専門ノウハウを持った人がいるのは重要ということですね。実際に特例子会社の設立の流れについてはいかがでしょうか。
今回はスタートラインのサポートをいただき、昨年暮れから「みらかキャスト」の採用に動いていましたが、先程も申し上げたとおり4月に立ち上がった会社ですので、採用活動時にはまだ会社はありませんでした。
会社名がない、存在していない中で採用するのは困難でしたが、「みらかHDの100%子会社が4月に立ち上がる、その会社に所属してもらう」ということをアピールしながら、スタートラインのサポートのおかげでなんとか雇用にこぎつけられたと考えています。
―具体的にはどのように採用を進められたのでしょうか。
スタートラインの「人材紹介サービスMyMylink」を活用しつつ、地域の支援センターからの採用を進めました。
弊社も障がい者雇用自体は行っていましたので、独自のコネクションは持っていましたが、スタートラインはやはり専門家ですね。弊社が持っていないようなコネクションを色々とお持ちでした。例えば学校や公的な機関などですね。そういったところにも声をかけていただいた結果、かなり幅広い母集団の形成ができたと感じています。
―雇用している障がい者は現在18名とのことですが、当初の計画と比べていかがでしょうか。
4月の段階では20名の雇用を計画していました。
辞退者やもともと勤めていた従業員の退職などで少し減りましたが、現在も採用を進めており、内定者もおります。おおむね目標は達成できていると感じています。
―実際に障がい者への仕事の切り出しはどのようにされたのでしょうか。
仕事の切り出しは昨年の秋頃から準備を始めています。
昨年の6月の段階で国内グループ会社が9社ありましたが、その中で今回の特例子会社の算定対象となるのは4社に限っています。といっても、全グループの人数比では8割がこの4社に所属していますが。
その4社「みらかHD」、「日本ステリ」、「富士レビオ株式会社」、「株式会社エスアールエル(以下、エスアールエル)」それぞれの全部署で業務切り出しをしてもらいました。
昨今の流れである業務のRPA化、ロボットの導入などとの兼ね合いも検討しましたが、事務的な定型業務、マニュアルがあれば多くの人が行うことができる業務に関しては全て切り出してもらいましたね。
―依頼して出てきた業務の中からどうやって選別されたのでしょうか。
スタートラインのお力添えが大きい部分ですね。
切り出された400種類もの業務、全て内容をヒアリングしていただきました。
当初の見積もりでは稼働時間が年間8,658時間にも上ったのですが、採用は20人見込みですので、フル稼働しても終えられない量です。立ち上がりであることも含めて考えると、5割くらいのペースにすることにしました。
1,000時間くらいの見込みで簡単にできる、納期も比較的余裕があるものを、相談しながら選別していきましたね。
申請をスタートラインに一任し工数削減
―4月1日の特例子会社の申請は、具体的にどのように進められたのでしょうか。
各所管庁との窓口対応もスタートラインにサポートいただきました。
「みらかキャスト」は社長が人事の役員を兼務し、社員はCSRも兼務している私1人のみで、その他は有期雇用の嘱託社員や障がい者の職員で構成されている計18人の組織です。手続きのために足繁く所管庁に通うというのは難しかったため、非常に助かりました。
―今後の障がい者雇用に対しての計画をお聞かせください。
今、「みらかキャスト」は自走実験中という認識です。具体的な業務としては、傷害保険のパンフレットのセットなど、簡単な事務的な業務を精神障がい者にお願いしています。
ただ、2年後に八王子に構えている「エスアールエル」の拠点が、あきる野市に全面移転する予定です。その新拠点に、「みらかキャスト」の支店を作りたいと考えています。
例えば各部署への郵便物、郵送物の配布や、東京ドーム2.5個分もある敷地内の清掃、枯葉の収集などの業務を中心として、知的障がい者を20名近く雇用する計画を立てています。2021年4月までに2.3%、さらに数年後には2.5%まで引き上げが予想される法定雇用率をカバーするための計画ですね。
―様々な障がい種別の方を採用しようとされている印象ですが、そういった考えはあるのでしょうか。
事務的な仕事の切り出しには限界がありますからね。
現在は精神障がい者の割合が多いですが、たとえば臨床検査のセットなど、知的障がい者に適した作業もたくさんあると考えています。
これまで派遣社員や外部機関に委託していた部分を、自社でまかなえるようになりますし、業務が増えることで障がい者雇用も進めやすくなりますし、一挙両得ではないでしょうか。
―最後に、今後2.5%以上の法定雇用率がやってくると言われていますが、どのように御社のサテライトオフィスを発展させていきたいとお考えでしょうか。
4月から1カ月半経ちましたが(講演当時2019年5月17日)、ゴールデンウィークが明けても今のところ「みらかキャスト株式会社」からは退職者が出ていません。
スタートラインのサポート体制の賜物であることはもちろんですが、相模原という土地で開始できたこともよかったと思っています。
やはり障がい者が新宿などの都会のオフィスに来て働く、というのは非常に難しいところがあるからです。現在、就労されているのは相模原近辺の方や、町田や八王子などにお住いの方です。町田や八王子から相模原への通勤は、都心とは逆方向なので、通勤負担がかなり軽減されます。
中には、TOEIC 700点以上というスコアを持っている方もいます。
スタートラインのサポートのおかげで雇用できた方ですが、現在その方には特別に英訳をしてもらっています。この方の例は若干特殊ですが、皆さんどこかに秀でているところがある方ばかりです。
例えば、一緒に働いている精神障がい者の中には、集中力に目を見張るものがある方もいます。そういった方に、「弊社に入ってよかったな」と思えるオフィス環境づくりは今度とも続けていきたいですね。
現在の障がい者雇用環境が出来上がったのは、スタートラインのお力添えがとても大きいです。
採用まではできても、環境を整えるのは専門的なノウハウや知識がないと難しいものですから。
今後もサポートはお願いしたいと考えていますが、将来的には自社のみで運営していくことも視野に入れています。まずは先程申し上げたとおり、あきる野市の新拠点の新規採用を進め、ゆくゆくは全社採用できるような体制を整えたいですね。