『特例子会社』という、障がい者雇用の選択肢
障がい者雇用の選択肢の一つとして『特例子会社』があることはご存知かと思います。
特例子会社とは、障がい者雇用の促進及び安定を図るため、【親会社(事業主)】が特別な配慮をした【子会社】です。
1987年『障害者の雇用の促進等に関する法律』改正の際、特例子会社制度が法制化されました。今は広く知られることとなった特例子会社も、出来てから約30年が経ちました。
施行当時は、障がい者法定雇用率は1.6%でした。
同時に知的障がい者も法定雇用率の算定対象となり、特例子会社は身体障がい者だけでなく、多くの知的障がい者を受け入れる場になりました。
この当時、精神障がい者は、法定雇用率の算定対象に入りませんでしたが、2006年に算定対象に入りました。
過去、特例子会社では身体・知的障がい者中心の雇用でしたが、現在の特例子会社では、精神障がい者も活躍する場となっています。
ここで最新の平成29年度 『障害者の職業紹介状況等(厚生労働省発行資料)』の障がい種別の就職件数を見てみましょう。
・身体障害者 26,756 件
・知的障害者 20,987 件
・精神障害者 45,064 件
就職件数では、精神障がい者の件数が最も多くなっています。
では現在、特例子会社とはどのくらいの社数があり、どのくらいの人数の、どのような障がい種別の方が活躍しているのでしょうか。
特例子会社の推移(社数と障がい者雇用数)
2019年4月10日に厚生労働省より発表された最新の『平成30年 障害者雇用状況の集計結果』によると2018年6月1日現在、486社の特例子会社で、32,518名の障がい者が活躍しています。
さて、この約10年間の特例子会社の推移(社数と障がい者雇用数)のデータを見てみましょう。
10年間で特例子会社数の増加に伴い、障がい者雇用数も増加していることがわかります。
社数は、10年で221社増えています。(2009年265社→2018年486社 増加率:約1.8倍)
人数は、10年で19,212名増えています。(2009年13,306名→2018年32,518名 増加率:約1.7倍)
続いて、障がい種別の人数を見てみましょう。
特例子会社で働く障がい種別と人数
2010年から2018年での障がい種別での増加率を見てみましょう。
・身体障がい者 1.48倍(7,752名→11,478名)
・知的障がい者 2.55倍(6,356名→16,211名)
・精神障がい者 10.63倍(454名→4,828名)
(※小数第3位以下切り捨て)
人数だけで見ると、知的障がい者が最も多く雇用されていることがわかります。
増加率で見ると、精神障がい者はこの8年で約10倍です。
これからの特例子会社では、より多くの精神障がい者が活躍していくこととなるでしょう。
特例子会社のメリット
特例子会社のメリットとはなんでしょうか。企業の目線で大きく3つあります。
1 一般企業よりも環境整備がされているため、障がい者の受け入れがしやすい
2 属人的になりがちなマネジメントを体系化し、ノウハウの蓄積ができる
3 『グループ適用』という制度がある
1 一般企業よりも環境整備がされているため、障がい者の受け入れがしやすい
特例子会社では、障がい者へ配慮した職場環境の整備をしなければなりません。
バリアフリーといった設備面の整備、障がい者との定期面談の場、メンタルサポートのための相談員の設置なども、職場環境の整備に含まれます。
働きやすい環境の整備は、職場への定着率向上が期待できます。
2 属人的になりがちなマネジメントを体系化し、ノウハウの蓄積ができる
近年、精神障がい者の新規求職者数が急増しています。障がい者の管理者にとっては、メンタルサポートをしっかりとしていくことがより重要となるでしょう。
障がい者雇用のマネジメントは属人的になりがちです。特例子会社でメンタルサポートの体制構築や、ノウハウ蓄積をし、その知見を本社や支店、営業所で活かすことが出来るのもメリットのひとつです。
3 『グループ適用』という制度がある
多くの子会社を持つ企業や、ホールディングスでは、『グループ適用』という制度を利用することが出来ます。
【親会社・選定した子会社・特例子会社】のグループで障がい者雇用率を通算できる制度です。適用には条件があることと、申請が必要です。子会社を持っていれば自動的に適用される制度ではありません。多くの子会社を持つ企業にとっては、障がい者の受け入れが難しい子会社があっても、グループ通算で雇用率の達成を目指せます。
特例子会社のデメリット
特例子会社のデメリットとはなんでしょうか。こちらも同じく3つあげます。
1 設立のために資金や準備が必要
2 マネジメント体制を確立するまでの苦労
3 『経営』を続ける難しさ
1 設立のために資金や準備が必要
『特例子会社』は名前の通り、一つの会社です。会社の設立には資本金、法定費用など資金が必要です。
以前は、特例子会社等設立促進助成金という制度がありましたが、2013年度に廃止されました。最大2,500万円の助成金が出ることもあり、特例子会社設立は国からの後押しがありました。
特例子会社の設立には要件があります。
親会社の要件
・親会社が、特例子会社の意思決定機関(株主総会など)を支配していること
子会社の要件
・親会社との人的関係が緊密であること
・雇用される障害者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上であること。また、雇用される障害者に占める重度身体障害者、知的障害者及び精神障害者の割合が30%以上であること
・その他、障害者の雇用の促進及び安定が確実に達成されると認められること
(厚生労働省資料 特例子会社制度の概要より引用)
子会社の要件として【親会社との人的関係が緊密であること】がありますので、親会社から子会社へ人員の輩出も必要となってくるでしょう。
2 マネジメント体制を確立するまでの労力
メリットの部分で前述した【障がい者へ配慮した職場環境の整備】も行う必要があります。
メンタルサポートの相談員の設置や、マネジメントの体系化などは、経験がないと相当な労力が必要です。
3 『経営』を続ける難しさ
会社ですので、上層部等から経営改善を求められることもあるでしょう。赤字が続いているからといって、人員整理や、すぐに会社の閉鎖をすることは出来ません。
もし、閉鎖することになると、イメージダウンにつながり、親会社への影響も避けられないでしょう。
特例子会社は障がい者を雇用する場所というだけではなく、ひとつの企業として『経営』も考えていかなければなりません。
まとめ
今回は障がい者雇用の一つの選択肢である『特例子会社』についてご紹介しました。
『Start NEXT!』を運営する(株)スタートラインでは、2019年4月に『特例子会社』を立ち上げるみらかホールディングス様のお話を伺うセミナーを開催しました。
次回はそのセミナーから、設立に至った経緯、悩み、そしてこれからの展望などを交えてご紹介したいと思います。