社外のチカラを存分に活用する

こんにちは。オフィス温度28℃の梶原です。

昨年から今年にかけて、ある企業様の障がい者社員を対象とした人事評価制度を作るお手伝いをする機会を頂きました。

この企業様では数年前から障がい者社員の就業規則や給与規定の見直しなどに着手しており、障がい者社員の処遇の見直しの集大成として、人事評価制度を構築しました。

今回のStartNEXT!ではこのプロジェクトを踏まえながら、社外のチカラを活用する、ということについてお話していきたいと思います。

私はこのStartNEXT!の中で、これまで何度も「人事評価は人財育成のツールである」というお話をさせていただいていますが、働く意欲が高く、成長したいと考える障がい者社員のために、独自の評価制度を作るプロセスには大小さまざまな困難があると感じています。

お客様から我々に人事評価制度の策定のご依頼を頂くのは、
「社内には制度を作るノウハウがないから」
ということが一番の理由なのですが、社外からお手伝いをさせて頂く際には、ノウハウのご提供もさることながら、これまでの“当たり前”を変える時に、目の前に立ちはだかる障壁を一枚岩になって超えていくという役割を担うことが実は最も重要なのではないか、と実感しています。

その理由をお伝えするために、人事評価策定プロジェクトのプロセスについて少しご紹介しましょう。

評価制度を作る際には、まず、障がい者社員に、
「どんな人財になってほしいか?」
を言語化するところからスタートします。

ご担当者の頭の中にあるイメージや単語をどんどん声に出してもらい、それらの中から、社外の立場である我々が「これは本質」と思われる言葉を選び出し、時に他の言葉に置き換えたりしながら、言葉と言葉を繋いでメッセージを創り上げる、という工程です。
この、
「どんな人財になってほしいか?=求める人財像=」
の言語化はその後、制度を策定する上で、常に立ち返る場所になるため、とことん考えて、言葉を研ぎ澄ましながら創り上げていきます。

その上で、そういう人財になるために必要な要素を洗い出します。
ここでは、まず、大きな分類として、「基本的行動」「社員として絶対に外せない要素(コンプライアンス等)」「業務遂行能力」などの様に、全体の建付け構成を先に考えてから進めることが肝要です。

さらに、それぞれの分類ごとに、求める要件を言語化していきます。
このプロセスを行っていると、求める要件は無尽蔵に増えていきがちですし、時には、「求める人財像」からは外れた要件が出てくることもありますが、社外のチカラ(社外コンサルタント)を活用して、それらを交通整理し、取捨選択して固めていきます。

また、障がい者社員が仕事毎にいくつかの職種に分かれていたり、あるいは知的障がい、身体障がい、精神障がいなどの障がい種別によって分かれている場合は、、要件を固めるのと同時に、それぞれに求める要件(=評価項目)を変えることも検討していきます。

求める要件、つまり、評価項目が固まったら、次は、それぞれの大分類の評価割合を決めていきます。この評価割合を決める際にも、職種や障がい種別を考慮して、決めていくのが肝要です。
例えば、より平易な仕事を任せる職種や障がい種別の場合は、まずは仕事をする上でベースとなる「基本的行動」の割合を高くし、「業務遂行力」の割合を低くするなど、です。

全体観が見えてきたら、今後は実際に運用する際に使用する【評価シート】を作っていきます。
ユーザーである評価者・被評価者にとって、わかりやすいレイアウトか、使いやすい動線か、プルダウンは選択しやすい大きさか?等も細かくチェックしながら作り上げていきます。

ここまで来たら、制度策定のプロジェクトももう終わりに近づいた、と思われがちですが、実はプロジェクトは、ここからが大きな山場を迎えます。

次のプロセスでは、出来上がった評価シートを使って実際の評価者の方にもシミュレーションをしてもらいます。
ここでは、

・一つ一つの評価要件の意味を正しく理解できるか?(評価者の思い込みが入る余地はないか?)
・評価点(例えば5段階等)をつけるときに違和感はないか?(評価点を選びにくくはないか?)
・要件にはなっていないが他に評価するのが良い要件はないか?(抜け漏れていた要素はないか?)

などを精査してもらうのです。

このシミュレーションのプロセスは、省略されることが多いように思いますが、私は必ず行ってもらうことをお勧めしています。
特に、初めて障がい者向けの評価制度を策定するのであれば、プロジェクトメンバーには見えていなかった不具合や違和感を発見することもしばしばあります。
制度が完成してから、それらに気付くのでは“時すでに遅し”、なのです。

制度の主管部署がその不具合や違和感を抱えながら制度を運用していくのは、例えれば、「ずっと喉に小骨が刺さった状態」のままでいるのと同じですので、完成前のこのタイミングでのシミュレーションを丁寧に行い、制度運用後の無用なストレスのタネを作らないようにすることが重要です。

さて、シミュレーションを行ったり、社内に新しい制度の導入についてのアナウンスをし始めると、それまでは見えていなかった社内の抵抗が表面化してくることがよくあります。
というのも、社内には、これまで障がいを持つ社員と共に働くことに慣れてはいても、

・その社員の皆さんに今以上にもっと活躍してほしい、と考える人がいる一方で
・今まで通り決められたことをやってもらえればよい、と考える人もいます。
あるいは、
・法律で決められているから障がい者を雇用しているのだ、という段階にいる人もいます。

この様に、社内に色んな温度感の人たちが混在している中、新しい制度を作り、社内に定着させていくことは一筋縄ではいきません。
さらには、これまでと同じプロセスで同じことを行うことに慣れている人たちに、新しいことを実施するのを受け入れてもらう際には、時に、
「忙しいのに面倒くさい」
などの声が聞こえることもあります。

こうした声が聞こえると、プロジェクト担当者にとっては、気持ちの面でも厳しくなるものですが、こういう場面においても、社外の力を活用していただきたいものです。
もし具体的な改善が必要であれば、その打ち手を提示し、改善を図ることは言うまでもありませんが、社外のコンサルタントは、こんな時に愚痴の受け皿になることもできます。遠慮せずに愚痴を言いましょう(笑)。

社内でのシミュレーションとそれを受けた改善、そして再シミュレーション等のプロセスを経て、ようやく制度が完成。
(案件によっては、社内決裁を得るための資料作成などもお手伝いすることもあります)
社外から制度策定の支援する役割もここで終了となります。

とはいえ、制度は“作ったらそこで終わり”ではありません。
これはどんな制度でも同じですが、
「作った後、運用し続けることができるかどうか。」
ここが一番肝心です。

運用することを通じて、障がいを持つ社員の人たちが目指す姿を自ら見据えて、今まで以上に事業に貢献するために活躍することに繋がらないと、作った制度はいとも簡単に過去の産物になってしまいます。ですので、運用フェーズに入ってからも、何か気になることがあれば、いつでも社外のコンサルタントを活用してもらいたいな、と思います。

以上、今回はいつもの記事とは違った視点で書かせていただきました。
私自身が企業の人事担当者だった経験の中で、
「こんなサポートが社外から受けられるなら活用したい」
と感じていたことを一つずつ実現していくことが、障がいを持つ人が、もっと社会で、企業で、組織で活躍することの“背中押し”に繋がっていればいいな、と考えています。

この記事を書いた人

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Startline編集部

この記事は株式会社スタートラインの社員および専門ライターによって執筆されています。障害者雇用の役に立つさまざまなノウハウを発信中。