新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、在宅勤務が推奨され働き方や雇用のあり方が急激に変化しています。
そのような状況下においても、障がい者雇用に関しては、2021年3月までに民間企業の法定雇用率が2.3%に引きあがる予定となっております。
そのため、引き続き、法定雇用率の達成のために障がい者雇用に取り組む企業は多いと考えられます。
しかし、障がい者雇用の取り組みを始めたばかりの企業の中には、
- 障がい特性への知識がなく接し方に不安を感じている
- 障がい者をどう受け入れれば良いのかわからない
- コロナ禍での在宅勤務のケアはどのようにすればいいのか
のような悩みや不安があるかと思います。
これらを解決するうえで、障がい者のメンタルケアは重要です。
障がい特性を理解し、メンタルケアのために必要な知識を会社全体で共有できるようになれば、障がい者のみならず、皆が働きやすい環境となるのではないでしょうか。
株式会社スタートライン(以下、スタートライン)では、障がい者雇用に取り組み始めた企業に対し、障がい特性に関する基礎知識や、認知行動に基づいた科学的な心理療法であるACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)注1、思考や感情に上手な対応をするためのマインドフルネススキルに関する研修を行っています。
新型コロナウイルスを考慮して、研修・インタビューはすべてオンライン会議ツールZoomを使用して実施しました。
今回、障がい者雇用に関する研修を受講されたのは株式会社ホープス(以下、ホープス)です。
ホープスでは、オラクルEBS(Oracle E-Business Suite)の構築・導入コンサルテーションを中心に、各種業務システムの開発を手がけています。従業員数は358名(2019年4月1日現在)。
インタビューには、ホープス 代表取締役社長 上原健太郎氏と障がい者を受け入れている部署の責任者のソリューション第1本部 本部長 丹野恵氏にご協力いただきました。
インタビューでは、「研修を受ける前の障がい者雇用に関する課題」「研修を受けた感想」「今後の障がい者雇用の展望」をお話しいただきました。
障がい者雇用を取り組むうえで、ぜひ参考にしてください。
目次
- 雇用した人をどれだけ活躍させてあげられるかが課題
- きっかけは知識のない状態で障がい者雇用しても困難が予想されたこと
- 身に付けるためには事例をもって復習していく必要がある
- 障がい者にも将来性のある仕事に就いて能力を伸ばしてもらう
雇用した人をどれだけ活躍させてあげられるかが課題
―研修前の障がい者雇用の課題は何ですか?
上原社長 障害者手帳を持っている方を1名雇用していましたが、メンタルケアの部分でそこまで特別な配慮はしなくても、問題なく業務を進めてくださっていました。
今回、問題なく業務を進めてくださった方とは別で、意図的に障がい者を雇用したのは初めてみたいなもので、以前は正直何も取り組めてなかったのが現状でした。
最近、新規採用した障がい者の担当者も、コロナ禍でリモートでの仕事が増えたことによって、個別に教える時間を割けないでいます。
そのことも影響して、新規採用した障がい者から、わからない部分があっても、質問できずに流れてしまい、心理的な負担が大きくなってしまうという声が早速上がってきています。障がい者雇用の難しさを感じているという状況です。
障害者手帳を持っている人はもちろん、障害者手帳を持っていなくても、メンタル面が不安定になっている人や不安定になりつつある人もいらっしゃるので、そういう人も含めて、「会社で最大限活躍してもらうにはどうすればいいか」というのが大きな課題だと思っています。
きっかけは知識のない状態で障がい者雇用しても困難が予想されたこと
―スタートラインについてはどのように知りましたか?
上原社長 スタートラインさんが、障がい者雇用に関して様々なサービスを展開されているのをたまたまインターネットで見たことがきっかけです。
そこで、無料のセミナーを開催されているというのを知って、そのセミナーに申し込みました。
そして、スタートラインの社員さんに直接弊社に来ていただいて、お話を聞かせてもらいましたね。
障害者手帳を持っている、持っていないに関わらず、その人のパフォーマンスをどれだけあげられるかという点は、会社の中での新規ビジネスとして検討していたので、色々な話をさせていただきました。
その中で、今回のACTやマインドフルネスのお話を聞き、これは障がい者雇用のみならず、普段のマネジメントにおいても身につけておくべき考え方だなと思いました。
まずは社内の人たちにACTやマインドフルネスについて知ってもらおうというのと、新規の障がい者を雇用することが決まっていた時期であったので、知識も何もない状態で障がい者を雇用しても、困難なことが増えるだろうと思って、この度の研修を受けさせてもらいました。
丹野氏 障がい者を受け入れる現場として、今回の研修は、障がい者雇用に関する知識を得られる良い機会だと、前向きな気持ちでしたね。
大きい会社だと、障がい者雇用をするのが当たり前と思っていたため、ようやく弊社もそのフェーズにきたのかなと思いました。
― 年度が変わるタイミングや、コロナ禍で状況が変わる中で、この時期に研修を受けようと思われたのは何故でしょうか?
上原社長 障がい者雇用の課題をクリアするためには、何か手を打たないといけないと思っていたので、先延ばしにする必要はないと感じていました。
早くうちの会社のマネージャー層に障がい者雇用に対する意識を持ってもらうきっかけづくりのために、この時期ですけど研修を受けさせてもらいました。
― 障がい者雇用に関して、他の会社のサービスの利用は検討されていましたか?
上原社長 採用の観点では、ハローワークなどのサポートを受けてはいましたが、他の企業からの支援はあまり検討していませんでした。
たまたまネットで知ったスタートラインさんの取り組みが非常に興味深かったです。
また、会社の課題をクリアするために参考になるなと思ったので、他を検討することはなかったですね。
身に付けるためには事例をもって復習していく必要がある
― 研修内容はいかがでしたか?
上原社長 研修の前半は、新しい言葉や知識が多く出てきたので、少しでも多く吸収しようとしていました。
例えば、精神障がいでも、障がい特性はいろんな種類があるというようなことなどは詳しく分かりました。
しかし、基礎知識としては理解できたものの、実際に障がい特性によってどういう違いがあるのかというところや、それに対して自分たちは何ができるのかといったところは難しく、明確には理解はしきれていないという印象です。
基礎的な知識を得るには、いい機会だったと思いますが、身に付けるためには事例をもって復習していく必要があると思います。
研修の後半は、ACTについて実際に自分で体験してみたところ、非常に面白かったですね。知識は得られましたが、自分の業務や生活に取り込んでいくのは難しいので、そのきっかけとしてすごく良いものだと感じました。
ACTをどうやってうまく使っていくかなど、会社としてもっと取り組んでいくべきだなと思います。
丹野氏 障がい者雇用に必要な知識が整理されていたので非常に分かりやすかったですね。
おかげで、障がい者雇用に関する知識や理解は深まりました。しかし、まだまだ復習が必要です。信頼関係を築くには、相互理解が必要だなと改めて思いました。
ACTやマインドフルネスについての研修内容は、私自身も興味があり個人的に取り組んでいたのもあって、非常に親しみやすかったです。
― 研修を受講された他の社員からの反応はありましたか?
上原社長 今回の研修は、研修を受けた社員が、障がい者雇用についてはもちろん日々の業務においても、色々なことに気づく、いいきっかけになったと思います。
今回得た知識などは、まだ導入部分でしかないと思うので、ここから自分の仕事にどういう風に活かすか、実際に障がい者との情報共有のためのチェックシートなどを運用するためにどうするかというような案などは、現在、社員間で出し合っている状況です。
丹野氏 研修を経て、障がい者雇用には今後どのように取り組んでいくか、今所属している障がい者にはどういうケアをするかというような話をしました。
障がい者にも将来性のある仕事に就いて能力を伸ばしてもらう
― 障がい者雇用に関する研修などを今後も受講したいと思いますか?
上原社長 今回の研修は初級編だったと思うので、今後は、あと2〜3回ご支援をいただいて、受講した人が研修で学んだ内容を他の人に伝えられるようになるまで学び、社内でも学んだことを広められるようにしたいです。
丹野氏 学んだことを実際に運用して、具体的な実績を出せるようなレベルに到達できるといいなと思っています。
そのためには、具体的な事例に基づいた、ケーススタディが必要だと思います。
― 障がい者雇用について今後どのようにしていきたいですか?
上原社長 法定雇用率で決められた人数の障がい者を雇用することは最低限の目標ですが、数だけクリアしても、いい仕事を与えることもできずに退職されたり、単純作業のみをしてもらったりでは、障がい者雇用に取り組んでいる意味がないと思います。
障がい者にも将来性のある仕事についてもらって、能力を伸ばしてもらうのが我が社の理想です。満足に働くことができ、雇用した人を成長させる仕組みを作ることがやるべきことですね。
障害者手帳を持っていないけれど、精神的に不安定になっている・なりつつある人もいらっしゃると最初に言いましたが、そういう人たちのメンタルケアのやり方も確立し、そのやり方を運用できる人を育成するのが今後の課題です。
丹野氏 障がい者との接し方は、障がい特性によって変わるので、本人との情報共有を高い頻度で行い、理解しておくことが重要だと思いますね。
注1:ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)
認知行動療法の「第三の波」のひとつとされる最新の科学的な心理療法です。人の心の動きに関する基礎的な研究成果に基づいており、主にうつ病などの精神医療の治療・援助に用いられています。ACTは2000年頃から心理療法として欧米に広まり、現在では日本も含め急速に世界中に広がっています。