この記事のポイント
- 厚生労働省の「障害者雇用実態調査」で身体障がい者1ヶ月平均賃金が前調査を下回った
- 平均賃金のうち下がったのは短時間労働であり、前回調査以降の法改正により計算法に違いが出ている
- 専門職から事務職での採用が進み職能給の変化も起きている
今回は、身体障がい者の平均賃金のデータを元に、雇用状況や、職種などの実体に迫ってみたいと思います。
厚生労働省の「平成25年度障害者雇用実態調査」では、身体障がい者の1ヶ月の平均賃金が22万3千円と発表され、平成20年度の25万4千円から大きくダウンしました。
なぜ身体障がい者の平均賃金が下回ったのでしょうか。
この厚生労働省の「障害者雇用実態調査」とは、民営事業所における障がい者の雇用の実態を把握し、今後の障がい者の雇用施策の検討や立案に役立てることを目的に、事業所調査と個人調査の2種類の調査を、5年ごとに実施する統計調査です。平成10年から実施され、今回で4回目の調査となります。
この調査のなかでは、先に挙げた労働賃金の平均だけでなく、労働時間や職業等、個人調査では職場環境・職場生活、相談相手、将来の不安等と、多岐にわたる内容が調査報告されています。
いったい、何が起こっているのか、調査データをさらに詳しくたぐり、考えてみましょう。
月間平均賃金から考える障がい者雇用の傾向に関する考察
身体障がい者の平均賃金は、22万3千円ですが、次に、労働時間の変化をみてみます。
労働時間 | 平成25年度平均賃金 | 平成20年度平均賃金 |
---|---|---|
通常(30時間以上) | 25万1千円 | 26万8千円 |
短時間(20時間以上30時間未満) | 10万7千円 | 19万7千円 |
短時間未満 | 5万9千円 | 5万2千円 |
労働時間別の内訳をみると、フルタイムの下げは軽微ですが、「短時間」勤務の平均賃金の大幅な減少が見て取れます。次に賃金の支払形態別の調査結果を見てみたいと思います。
支払形態 | 平成25年度 | 平成20年度 |
---|---|---|
月給制 | 58.3% | 66.5% |
日給制 | 4.8% | 3.8% |
時給制 | 32.6% | 27.0% |
その他 | 2.8% | 2.2% |
無回答 | 1.0% | 0.6% |
月給制の割合が下がり、時給制の割合が上昇していることがわかります。法改正の動きでは、平成22年度に短時間勤務の方を雇用率に算定する制度が導入されました。そのような背景から、身体障がい者の月間平均賃金の減少は、月給制から時給制へと移行した短時間勤務の反映によるものと考えられます。フルタイム(30時間以上)では今後も25万~26万円台での推移が続くと考えています。
なお職業別のデータとしては以下となっております。
職業 | 平成25年度 | 平成20年度 |
---|---|---|
1位 | 事務的職業(25.5%) | 事務的職業(31.7%) |
2位 | 専門的、技術的職業(14.3%) | 生産工程・労務の職業(23.6%) |
3位 | 販売の職業(9.5%) | 専門的、技術的職業(23.4%) |
前回と比較すると、専門的、技術的職業の割合が減少しているかわりに一般事務の割合が上昇していることがわかります。職能給の違いという点からの影響もあるのかもしれません。
知的障がい者と精神障がい者の賃金と雇用実態について
その他の障がい種別の平均賃金を、以下に紹介しておきましょう。
労働時間 | 平成25年度平均賃金 | 平成20年度平均賃金 |
---|---|---|
平均 | 10万8千円 | 11万8千円 |
通常(30時間以上) | 13万0千円 | 12万4千円 |
短時間(20時間以上30時間未満) | 8万7千円 | 8万3千円 |
短時間未満 | 3万5千円 | 4万0千円 |
労働時間 | 平成25年度平均賃金 | 平成20年度平均賃金 |
---|---|---|
平均 | 15万9千円 | 12万9千円 |
通常(30時間以上) | 19万6千円 | 15万7千円 |
短時間(20時間以上30時間未満) | 8万3千円 | 5万9千円 |
短時間未満 | 4万7千円 | 2万4千円 |
知的障がい者については概ね横ばいでしたが、一方で、精神障がい者については大きく上昇していることがわかります。
また、精神障がい者の職業別では、前回調査では6.4%に留まっていた事務的職業が、今回の調査では32.5%と大幅に上昇しておりました。精神障がい者の賃金の支払形態は、時給制が51.7%と月給制などよりも時給制の割合が上昇しているにもかかわらず、賃金の上昇が起きています。これらより精神障がい者の就労支援機関が増え、以前よりも能力開発が進み、より好条件での精神障がい者の一般事務としての雇用が進んできた結果と推測できます。
このデータからは、過熱感のあった身体障がい者の採用から少しずつですが、精神障がい者への採用へも拡大してきている背景がうかがえます。
また、今後の動きとしては、身体障がい者の月間平均賃金は上がることはあっても下がることはないと予測できます。そして、身体障がい者と精神障がい者の平均賃金はいずれ横並びになってくるのではと予測しています。
【参考】厚生労働省「平成25年度 障害者雇用実態調査」「平成20年度 障害者雇用実態調査」
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StartNEXT!編集部
この記事は株式会社スタートラインの社員および専門ライターによって執筆されています。障がい者雇用の役に立つさまざまなノウハウを発信中。