今回の記事はインタビュー記事です。
公益財団法人鉄道弘済会義肢装具サポートセンター所属、理学療法士梅澤慎吾さんに、日々身体障がい者(四肢不自由・欠損)の方々に接する中で感じた雇用に対する意識や、就労に当たっての社会状況などについて伺いました。
「そもそも働く気あるの?」
「そりゃあ、ありますよ!」その言葉の裏には…
インタビュアー「厚生労働省のデータによると、身体障がい者の方の新規求職者数は減少傾向にあるようです。働きたい方は当然働きますよね。そこで、働くことをあきらめるというような方は一定数いるのでしょうか?」
梅澤さん「当事者の方は『諦めた』とは言わないですね。今は働いていないとか言うんじゃないでしょうか。
でもやっぱり、そういう意思を言葉では表現しないのではないでしょうかね。
私が『働く気あるの?』って聞いた時に、当事者の方は『そりゃあありますよ!』と言われます。
しかし、内なる声として『…いい仕事があればね』とか、色んな条件が付いてくるようです。」
インタビュアー「それはいったいどういう背景と心情があるのでしょうか?」
梅澤さん「仕事をするかしないかは結局食っていかなければいかないからですよね。
なのに何で仕事をしないのかという問いに対しては、やらないで済む境遇の切断者と、そうでない切断者がいます。そこには様々な背景があると想像します。
例えば、加害者の存在する交通外傷であるとか労災なら、その後の最低限の生活は保障されます。怠惰な生活をしてても生きていられる。むしろ仕事をすることによって保証が切られる。そうなるとその人の生きざまに関わる。そういう事例はゴマンとあります。
そこで、労災で切断した人は仕事に対してどう考えてきたかが見えてきますね。
できれば働きたくないという人もいますし、本人にとって生きがいである仕事は続けたい人もいます。症状固定をするタイミングは本人にゆだねられているのが実際です。働けないという状態で症状固定をする人もいれば、しない人もいます。
全部その人の方針ですし、仕事との距離感ですし、生きていくうえで何を大切にするかによります。
加害者だった場合、自損だった、腫瘍だった、その他の病気だった場合、それは他者が保障してくれる話ではないので、経済を困窮させます。
働くしかありません。
切断障がいを境にして、仕事の働き方だったり、その方の生きざまみたいなのが見えてくる瞬間だったりということは、不謹慎な言い方かもしれないけど、とても興味深く感じます。
その瞬間を見ることによって、その人が人生において何を大切にしているかが見えるからです。
難しいのは社会経験がないという若い方たちですね。
社会との接点の中で仕事へのスタンスが形成されていない。また身体的ハンデが前提ならば、その条件下で職業選択をするとなると無意識に仕事の選択肢は狭くなるかもしれない。
でも、そういう状況が「自分のできる範囲で仕事を探す」というピュアな考え方を生んでいるともいえます。
義肢製造技術の進化と経済的負担のバランス
インタビュアー「世の中として、社会との受け入れる環境を作る。例えば義足を作るのには費用が掛かるとか、社会としての考えを変えていく必要があるのではないでしょうか?
梅澤さんはどのようにお考えですか?」
梅澤さん「必要性はあると感じています。今、物価は上がっているのに給料は増えていない。だから実感としての生活水準は低下していると思います。ちなみに義足の値段も年々上がっているんです。
昔の義足だったら歩けないが、今の義足だからこそ歩けるという事例も必ず存在します。でもその金額を払えなければどうするのか、ということを考えなければなりません。
技術の進歩は一長一短なところはあります。
今後日本が裕福になるとは思えないので、若者の人口も減るし、生産者の人口が増えなければ、多分しんどくなると思います。
今の高齢者は裕福ですが、その中でも高齢者の貧困が聞こえるようになってきています。
ある地方の義肢製作所の方が当施設を訪問した際に、『義足代が払えない人はどれだけいるか?』聞いてみたところ、かなり多い、年間で10人位いると仰っていました。
そういった方にどうやって補てんしているかというと、義肢製作所が義足を貸しているというんです。
そういった場合、義肢装具所は利益が無いため、泣いているんです。
去年12月に東京都下の病院に訪問した際、そこで医師とPTに話を聞きましたが、『実は生活収入が低い患者さんが多い。今年だけで5人は金銭面の問題で義足を付けてない人がいる。』と言われました。
東京でもそういう問題が起こり始めているんです。切断になる人が多い糖尿の患者さんは傾向として、経済力が低いという分析もされています。
切断するリスクが高い人ほど、金銭面に問題があるという分析が出来ます。
そうすると、このままいくと糖尿患者は義足をつけるなという話になってきてしまいかねません。
日本は健康保険医療制度がしっかりしているということが、価値だと言われていますが、療養費になるとまた扱いが変わってくるので、格差社会になってしまいかねません。
このような経緯で下肢切断を期に仕事を失い、生活力をも失った場合、生活保護を勧められるというケースも聞きます。
生活保護では義足を公費で作製可能になるからなのですが、そのために生活保護になりましょうというのは変な話だと感じます。
でもそういう意見が出てくるのも当然とも感じます。
医療保険が破たんするという問題もあるにせよ、義足をレンタルに出来ないかとか、物にこだわるのではなく、杖ゴムみたいなものでもいいのではないでしょうか。
現状は一律で選べません。どんなに安くても下腿義足で30万以上、平均的には40~50万はします。
また、リースする仕組みはないかなと考えています。
地域によって異なる可能性もありますが、私の経験では社会福祉協議会に義足費用の一時貸付を相談した際、「返金できる確証があれば貸します」と言われました。
でも、そうまでしてでも義足を欲しいと思うケースは、一家の稼ぎ頭が切断した場合なんです。社会福祉協議会は「稼ぎ頭が切断したなら、返済できないはず。お金は貸せない」となる。これでは助けを求める者に対してのサービスにはなりません。
現状は、これがあれば安心、という仕組みはありません。社会としてどういった仕組みを整えていくか、この努力は非常に大事だと思います。」
理学療法士の意識改革の重要性
梅澤さんは続いて理学療法士について言及されました。
「理学療法士にもこういった考え方が必要だと感じています。私は現状に不満を感じているんです。
自分たちが社会や障がい者にどう貢献しているのか、成果が出ているのかではなく、人体の不思議についてだけ話をしている理学療法士もいます。
ピーターパンが多すぎるんです。
理学療法士の平均年齢は30歳前後ととても若いんです。
我々の日々の仕事が社会とどう繋がっていて、どういう価値を生み出しているのかについて認識に欠けているのかもしれません。
がんは徐々に治せる可能性のある病気になっています。だが理学療法には大きな変化はありません。年月を経たなりの変化を起こしていかなければならないと思います。
理学療法はもっと良い方向に変われる可能性を十二分に秘めています。
私から見えるPT業界は、その職能が評価されない状況を自ら作り出しているともいえます。最近はアシスト機能をもつロボットスーツなどを用いたリハビリテーションが保険診療で可能になっています。このような工学系技術の進歩は理学療法のフィルターを通して変化を生み出せる手段になり得るものですが、PTは現状でその時流に乗れていません。
例えばテクノロジーを扱えるようになることは、理学療法が目指すべき進化の方向性の一つです。だけどそこにアンテナが立っていないので、職能向上のチャンスを逃してしまっています。科学になっていないので、医師や看護師から「リハビリの人」「按摩さん」「患者さんと歩きながら横で笑っている」人にしか思われないんです。
それがすごく残念に感じています。
義足をつけたことによって、これだけ生活が激変したって言いたい。
その辺の話を発信してこの分野の社会的価値を高めていくことをゴールにしています。
今後の雇用支援のあり方
インタビュアー「雇用の支援という点ではいかがでしょうか?現在スタートラインではサテライトオフィスというサービスを行っています。
さまざまな業種・規模の企業が、障がい者の就労を支援するスペシャリストが常駐するスタートラインのサテライトオフィスを活用し、障がい者雇用を成功させています。
また、現在多くの障がい者人材紹介サービスなどがありますが、弊社ではMyMyLinkというWeb求人・求職紹介サービスを始めました。
一番の特徴は、就労移行支援施設などの支援機関さんが障がい者の方の障がい特性や配慮事項などのコメントをつけることができる点です。」
梅澤さん「雇用の支援という点で言うと、公の支援もさることながら民間企業の支援サービスが増えていることは非常にプラスだと感じています。
私たちの周囲では独自のルートがあってJR系列へご紹介することが多いんです。
ですが、障がい者にとって就職先の選択肢が増えることは、その方の可能性が広がることと同義だと思います。
私の周りに限らず、就職もせずくすぶってしまっている若者はいっぱいいます。
そういった若者たちに民間サービスをおおいに活用してもらい、またスタートラインさんに応援・協力をもらって雇用に繋がることは、彼らにとって社会にとって高い価値がもたらされると思います。」
インタビュアー「梅澤さんの、社会のご期待に沿えるようにがんばってまいります。本日はありがとうございました。」
梅沢さん「こちらこそ、ありがとうございました。お互いに社会に価値をもたらす存在であるようがんばりましょう!」
(参考)次世代型障がい者専門求人サイト MyMyLink
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StartNEXT!編集部
この記事は株式会社スタートラインの社員および専門ライターによって執筆されています。障がい者雇用の役に立つさまざまなノウハウを発信中。