日本赤十字社が指定管理者として運営する公設民営の病院で、「もしもを守る。いつもへつなぐ。」を掲げ、チームで適切な医療を提供している横浜市立みなと赤十字病院(以下、みなと赤十字病院)。
2024年12月にTASKI COFFEEを導入してから約10ヶ月、その活用事例を伺いました。(取材日:2025年9月30日)
▼インタビューを受けてくださった方
事務部 人事課 人事課長 深野圭司氏
事務部 人事課 人事企画係長 桐生章弘氏
| 従業員数 | 業種 |
|---|---|
| 1,490人(2024年11月時点) | 医療機関 |
既存の業務切り出しに依存しない新しい雇用創出の仕組みを模索
―――TASKI COFFEE導入前の障害者雇用の状況を教えてください。

既存職員が障害者であったこともあり、結果的に雇用率を達成していました。
しかし、法定雇用率の引き上げにより、日本赤十字社全体で達成が難しくなっていきました。
―――障害のある方は、どのような業務をされていたのですか?

当時、郵便物の仕分けやデータ入力などの業務をお願いしていましたが、ペーパーレス化の進展で、紙ベースの事務作業が減少し、切り出せる業務がどんどん少なくなっていました。
加えて、精神障害のある方は勤怠が不安定になるケースもあり、任せていた業務を他の職員がカバーする事態も発生していました。結果として、現場が業務過多になり、従来のやり方では限界があると痛感しました。
―――限界を感じていた中で、どのような障害者雇用施策を考えていたのですか?

既存の業務切り出しに依存しない新しい雇用創出の仕組みを模索していました。
農園型×障害者雇用や院内マッサージといった案も検討しましたが、運営面の課題、そして「院内で障害者が働いている姿を見える化をしたい」という幹部の意向から、TASKI COFFEEが候補にあがりました。
―――TASKI COFFEE導入の決め手は何ですか?

院内で完結できることと、職員に喜ばれるサービスであることです。
みなと赤十字病院の職員はコーヒーをよく飲む傾向があり、既存のコーヒーマシン利用も活発でした。そこに『障害者雇用×コーヒー』という仕組みを組み合わせることで、自然な形で雇用を創出できると判断しました。

農園型×障害者雇用は院外での作業になるため、院内で障害者が働いている姿を職員が見られないという課題がありました。
しかし、TASKI COFFEEなら、院内で完結し、CSRやDE&Iの観点からも価値が高いと感じました。
―――ありがとうございます!導入に対してどのように幹部に合意形成を図っていったのですか?

初期費用や運営面への懸念は当然ありました。
特に、雇用後の管理や教育、離職リスクは不安要素でしたので、採用から教育、日々の体調管理まで一括で支援いただけるスタートラインのサポート体制を強調して説明しました。

幹部会議では、単なる『雇用率達成』ではなく、CSRやDE&Iの観点からも価値があることを訴求しました。さらに、夜勤もある職員にとってコーヒーは日常的なニーズがあり、職員満足度の向上にもつながると説明しました。
結果的に、『現場の工数を減らしながら、病院全体の価値を高める取り組み』として理解を得られました。

リーダーポジションを設置して業務が円滑になるように工夫
―――障害者採用はスムーズにいったのですか?

採用はハローワーク経由で実施しましたが、病院勤務でカフェ業務という特性から応募は多数集まりました。
現在6名が勤務し、焙煎豆のハンドピック、ドリップバッグ製作、マシン補充などを担当してもらっています。
チームで役割を分担し、自発的に取り組む業務体制が定着しています。
―――自発的に活躍されているのですね!マネジメントで意識している点はありますか?

現場の職員は別の業務も抱えており、障害者に細かく指示を出すのは難しい状況でした。
そこで、1人の職員を“リーダーポジション”として配置しました。この方は、もともと障害者雇用で採用した社員ですが、面倒見がよく、性格的に適性があると判断したのです。

リーダーを介して、日々の相談やトラブル対応をワンクッション置くことで、管理職員の業務過多を軽減できています。
例えば、業務の割り振りや、ちょっとした困りごとはリーダーが判断し、解決できない場合のみ管理職員にエスカレーションする仕組みです。
―――リーダーポジションを設置して業務が円滑になるように工夫されているのですね。

そうですね。また、スタートラインのスタッフと連携し、体調やメンタル面の変化を早期にキャッチできる体制も構築しています。
Enable360(※注1)を活用し、現場とサポート側で情報を共有することで、問題が大きくなる前に対応できるのも安心材料です。
院内コミュニケーション活性化だけでなくCSR、DE&Iへ
―――導入から、約10ヶ月経ちますが、障害のある方と職員からの反響はどうですか?

障害のある方からは、『ありがとうと言われるのが嬉しい』『自分のペースで働ける』といった声が多く、働きやすさを実感しているようです。
一方、職員からも『コーヒーが美味しい』『無料で飲めるのはありがたい』と好評で、院内コミュニケーションの活性化にもつながっています。

―――今後の障害者雇用の展望について教えてください。

今後は、院内にとどまらず、地域とのつながりを強化していきたいと考えています。
具体的には、年末に開催予定の『地域医療連携交流会』で、障害のある方が焙煎・製作したドリップバッグコーヒーをお土産として配布します。
参加予定は約200名の地域の先生方で、1000パックを準備中です。

当院のCSRやDE&I活動の一環として位置づけています。
『障害のある方が作ったコーヒー』というストーリーを院長の挨拶で紹介し、地域に根ざす病院として社会的責任を果たしていることをアピールしていきたいです。
こうした取り組みが、障害のある方にとっても、自分たちの仕事が院外で評価される大きなモチベーションにつながると思っています。
※注1 Enable360(いねいぶるさんろくまる)
スタートラインが独自に開発した健康管理、自身の体調把握を行うためのツール。自身の状態や生活習慣を理解し、再び不調になる前に自身で対処する力を身に付けます。
