今回は、障がい者雇用に失敗した事例をご紹介させていただき、この事例から、障がい者雇用で注意すべきポイントを確認しようと思います。
- 勤務時間の配慮もし、あんなに活き活きと働いていたのに・・・
- 「うつ」症状には注意できていたが実は・・・
- どうすれば雇用は継続できただろう?
業界 | サービス業 |
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障がいの種類 | 精神障害者福祉手帳2級所持(うつ) |
年齢 | 30代男性 |
業務内容 | 総務事務 |
雇用形態 | アルバイト |
ある企業で初めて精神障がい者(うつ)を雇用しました。
その方は前職をうつ発症によって休職、休職期間満了後退職し、休職期間を含めると約3年のブランクがある方でした。うつ症状は服薬によって安定していて、約1年は不安定な症状は出ていないとのことでした。
総務事務の経験はなかったものの、営業事務職経験があり適性と障がい特性を考慮して総務事務職で採用しました。
勤務時間について、週に1度の定期面談を実施して相互に状況を見ながら、段階的にフルタイムに近づけていくようにし、はじめは1日5時間、週3日で勤務を開始しました。
3ヶ月経った頃には少しづつ業務にも慣れてきて、やる気もどんどん向上していく様子が見て取れました。業務に関連する書籍を積極的に購入してよく勉強をしていました。朝は4時頃に起床して読書をして勉強したり、ジョギングやウォーキングの運動をしたりした後出勤していました。出勤時は元気よく挨拶をしていて、周りの方々が驚くほどでした。
本人も職場関係者との関係性に満足していると面談で話をしていて、より多くの仕事を任せて欲しいと希望していました。そこで水曜日は通院のために休日にし、週4日1日8時間勤務へと変更しました。そして徐々に担当業務を増やしていきました。勤務状態は良好で、なにより就労意欲が高く活き活きと働いている様子でした。
そこで総務担当者は新事業所開設の業務を担当させてみることにしました。本人は慣れない業務ながら意欲的に新しい業務にも取り組みました。
それからまた3ヶ月後、新事業所が開設しプロジェクトが落ち着いたところで、ある日突然体調不良による欠勤が始まりました。電話による連絡もなかなか取れなくなり、メールでのやり取りも難しくなっていき、長期欠勤から復帰することができませんでした。結果、その方は退職に至りました。
記者は様々な業界の、多くの人事ご担当の方と接触する機会が多いのですが、この失敗事例は典型的なケースと言えるかもしれません。
「うつ」と診断されていながらも実は「双極性障害(躁うつ病)」であったというケースです。これから精神障がい者を雇用する予定のある人事ご担当の方には、是非とも押さえておいてほしいポイントがあります。
まず予備知識として「うつ」と「双極性障がい」の簡単な違いと、その診断の難しさについて知っておく必要があるでしょう。
うつ・・・気持ちが沈んでなにもやる気が起きない抑うつ状態が続く。
双極性障がい・・・抑うつ状態と、気分が高揚した躁状態が、交互に現れる。躁状態の重さによって「双極Ⅰ型」と「双極Ⅱ型」の2種類がある。うつである期間が長いことが多く、躁状態が現れる頻度は数ヶ月~数年に一度ということもある。
具体的な症状
- 睡眠時間が2時間以上少なくても平気になる
- 寝なくても元気で活動を続けられる
- 人の意見に耳を貸さない
- 話し続ける
- 次々にアイデアが出てくるがそれらを組み立てて最後までやり遂げることができない
- 根拠のない自信に満ちあふれる
- 買い物やギャンブルに莫大な金額をつぎ込む
- 初対面の人にやたらと声をかける
- 性的に奔放になる
双極性障がいの診断の難しさ
「躁」状態にあっても、本人に「躁の症状だ」という自覚がなければ、主治医には伝えません。本人は「自分は元気だ」と思ってしまっているからです。特に「躁」が比較的軽い「軽躁」であるケースは周囲も見逃しがちで、結果主治医は「躁」状態であることを知ることができずにうつとしか診断できません。
今回の事例では、うつの症状が出ていないかどうかを人事担当者、上司、本人は注意できていました。しかし、診断が「うつ」であるため、三者ともに「躁状態」には注意することができず、誰も対処することができていなかったわけです。毎朝4時に起きることは「うつ」の障がい者にとって自然と言えるでしょうか?
急に意欲が高まり周囲の方々が驚くほど元気なことは「うつ」の障がい者にとって自然と言えるでしょうか?
活き活きと働いていることは素晴らしいことですが、長く働き続けてもらうためにはそれなりに長い目で注意深く見ることが必要でしょう。
この事例で取るべきであった措置のひとつとして、ご家族・医療機関・支援機関との連携体制の構築が挙げられます。
うつになる以前から早朝に起床して勉強したり運動したりしていたか?
無計画な書籍などの物品購入がないか?
本人の高揚感から来る過度な行動によって家族・同僚が変に感じたりしていないか?
そういった「躁状態」の傾向を連携体制を構築していれば把握することができます。把握できた時点で、まずは主治医へ情報を伝達しましょう。受診時に、本人だけでなくご家族や支援機関の方が同席して「躁状態」であることの具体的エピソードを伝達すれば主治医も初めて「双極性障害」であることの診断が可能になります。
加えて「うつ」と「双極性障害」では処方する薬も全く変わります。「躁状態」であることを抑える薬を処方してもらい、過度な行動が収まるまで本人の活動をセーブすることができるでしょう。本人の自覚している症状と医師からの診断名だけをもって、全てが判断できるわけではないという前置きの認識があっても良いのかもしれません。
ご家族や支援機関、医療機関と連携を取り、その時々の情報交換をすることによって本人の障がい特性について認識を深めることができ、具体的な対処方法もより適した選択が可能になります。
参考
双極性障害(躁うつ病)(厚生労働省知ることから始めようみんなのメンタルヘルス)
うつ病(厚生労働省知ることから始めようみんなのメンタルヘルス)
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StartNEXT!編集部
この記事は株式会社スタートラインの社員および専門ライターによって執筆されています。障がい者雇用の役に立つさまざまなノウハウを発信中。